室井佑月・作家
室井佑月・作家
イラスト/小田原ドラゴン
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 作家の室井佑月氏は、二階俊博自民党幹事長が東京五輪・パラリンピックの中止に言及したことについて、その狙いを推測する。

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 自民党の二階幹事長の言葉に注目している。この方のファンだから、というのではもちろんない。この方は、政府のやろうとしていることをまるで思いつきのように、ポンと打ち上げるのが得意だ。あたしはかなり狙って言葉を発しているのではないかと思う。

 世間の反応が悪ければ二階氏の放言ということにし、世間の反応が良ければ政府はそれを実行する。

 二階氏は4月15日、TBSのCS番組の収録で、東京五輪・パラリンピックについて、

「これ以上とても無理だということだったらこれはもうスパッとやめなきゃいけない」「オリンピックでたくさん蔓延(まんえん)させたということになったらなんのためのオリンピックかわからない」

 と発言し、話題となった。

 ま、その後すぐに文書を出し、こういっているんだけどね。

「自民党として安全、安心な大会の開催に向け、しっかり支えていくことに変わりはない」「ぜひ成功させたいという思いだ」

 しかし、それでもテレビでの発言には、意味があったんじゃないかな、とあたしは思う。

 考えられることは三つ。(1)1年たって政府が新型コロナの深刻さにやっと気が付いた(2)公表していないが、政府は、実はこれからものすごく感染が拡大するという情報を把握している(3)選挙が近いことを意識して国民世論におもねっている。

(1)なら論外だが、意外にありそうなのが怖い。なにしろこの1年、政府は楽観的で無策だった。(2)ならもっと怖いが、そうだとしたら政府はいち早くその情報を公表しなければならない。オリンピックのために肝心な情報を少しでも隠しているなら、最悪だといえよう。

 じつのところ、あたしはもっともありそうなのは(3)だと思っている。政府というか、自民党政治家にとって、大事なのは選挙。優先順位としていちばん上にあるのは選挙。コロナのことや東京五輪のことだって、それに絡めて付け足しで考えているだけ。だから、世の中が混乱している。

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室井佑月

室井佑月

室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中

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