黒川博行・作家 (c)朝日新聞社
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※写真はイメージです (GettyImages)
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 ギャンブル好きで知られる直木賞作家・黒川博行氏の連載『出たとこ勝負』。今回は、コレクションについて。

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 2000年、いまの家に引っ越した。庭に四畳半ほどの池があったので、前の家の火鉢で飼っていた金魚を放した。金魚は器に合わせて大きくなると聞いていたが、そのとおりぐんぐん育って体長が二十センチくらいになり、次の年には水草に卵を産みつけた。

 わたしは水草を火鉢やバケツに移し、孵化した稚魚の世話をした。育った金魚を知り合いにも配り、いま池には大きな金魚が五十匹ほどいる。

 引っ越して二年ほど植木にハマり、よめはんといっしょにあちこちの園芸店に行った。紅葉、梅、木蓮、辛夷(こぶし)、金宝樹、椿、牡丹など、いま庭にあるのはよめはんとわたしが植えた木だ。

 2005年、近所の友達のMさんがわたしのパソコンに『ヤフーオークション』をセットしてくれた。わたしはヤフオクにハマり、染付の器を蒐(あつ)めはじめた。ほとんど毎週のように宅配の段ボール箱がとどく。大量の皿や茶碗は食器棚に収まらなくなり、台所の隅や廊下に箱が積みあがった。

 一年ほどで染付に飽きて、次に蒐めだしたのが万年筆だった。モンブランやパーカーやペリカンの軸が太いのを落札しては机の筆立に入れていく。ハッと眼が覚めたのはふたつの筆立に収まらなくなったときで、考えてみれば、どの万年筆もインクを入れたまま使っていない。あわてて字を書いてみたら、七、八本のペン先が乾いたインクで固まっていた。洗面器に水を張ってそれらの万年筆を浸してみたが、復帰したのは二本だけだったから、そこで万年筆熱は冷めた。子供のころからわたしはなにごとも長続きせず、すぐに飽きる。

 次にヤフオクで見はじめたのがオーディオ機器だった。スピーカー、アンプ、ターンテーブルと買いあつめて、置くところがないから地下室を改装してホームシアターにした。一年ほどは機嫌よく大型スクリーンで映画を観たが、これもまたプロジェクターやDVDデッキの操作が面倒になり、地下室はいつしか物置と化した。レンタルビデオショップからも足が遠のき、いまはネットフリックスで映画を観ている。

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黒川博行

黒川博行

黒川博行(くろかわ・ひろゆき)/1949年生まれ、大阪府在住。86年に「キャッツアイころがった」でサントリーミステリー大賞、96年に「カウント・プラン」で日本推理作家協会賞、2014年に『破門』で直木賞。放し飼いにしているオカメインコのマキをこよなく愛する

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