瀬戸内寂聴(せとうち・じゃくちょう)/1922年、徳島市生まれ。73年、平泉・中尊寺で得度。著書多数。2006年文化勲章。17年度朝日賞。近著に『寂聴 残された日々』(朝日新聞出版)。
瀬戸内寂聴(せとうち・じゃくちょう)/1922年、徳島市生まれ。73年、平泉・中尊寺で得度。著書多数。2006年文化勲章。17年度朝日賞。近著に『寂聴 残された日々』(朝日新聞出版)。
横尾忠則(よこお・ただのり)/1936年、兵庫県西脇市生まれ。ニューヨーク近代美術館をはじめ国内外の美術館で個展開催。小説『ぶるうらんど』で泉鏡花文学賞。2011年度朝日賞。15年世界文化賞。20年東京都名誉都民顕彰。(写真=横尾忠則さん提供)
横尾忠則(よこお・ただのり)/1936年、兵庫県西脇市生まれ。ニューヨーク近代美術館をはじめ国内外の美術館で個展開催。小説『ぶるうらんど』で泉鏡花文学賞。2011年度朝日賞。15年世界文化賞。20年東京都名誉都民顕彰。(写真=横尾忠則さん提供)

 半世紀ほど前に出会った98歳と84歳。人生の妙味を知る老親友の瀬戸内寂聴さんと横尾忠則さんが、往復書簡でとっておきのナイショ話を披露しあう。

【横尾忠則さんの写真はこちら】

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■横尾忠則「生きるために目的や意味など必要ないですよ」

 セトウチさん

 気にしてらっしゃることから書きます。時計の写真はプレス資料と共に3月5日と19日の二回、メールで送っています。すでに2週間前です。未着とは変だと思って秘書君に問い合わせたところ、セトウチさんに見せてないことがわかりました。何んと優秀な秘書君!?

 さて、コロナ禍ですが、自粛のせいで完全に運動不足、ちょっと動いたり歩こうものなら息切れがするんです。そんな84歳の僕をセトウチさんは「瑞々しい」なんて言ってくれるんだから、額面通りに喜ぶわけにはいかないけれど、14歳違いのセトウチさんから見ると84歳も若く見えるんだったら、年相応に自分を見るのではなく、14歳年上のセトウチさんの目線から見下ろせばいいってことですね。ハイ、若さの秘訣にします。まあ今のところは髪の毛も頭皮にしっかり食い込んでいますし、白髪らしき徴候が前の方に見え隠れしている程度で、歳の割りには頭髪だけは瑞々しいかも知れませんが、まあこれも時間の問題でしょうね。

 以前黒澤明さんから58歳の頃、「ヘェー、まだ58歳? これから先長いですよ」と言われて26年が経ちました。黒澤さんは88歳で亡くなられましたが、その年まであと4年です。仮に僕が88歳になった時、やはり14歳年上のセトウチさんから見れば、いくらなんでも88歳を瑞々しいとは言わんでしょ。

 いまだによく今後の予定は?と聞かれます。まだ何かやるように見えるんですかね。「これからの予定」は「死ぬ日はいつですか」と聞かれているようにしか聞こえないけど。84歳になって予定なんか、死ぬ以外にありませんよ。仮にセトウチさんみたいに百まで生きることがわかっていれば、死ぬ以外に何か生きる予定を立ててもいいですけど。そんな予定を目的に生きるなんて嫌ですよね。生きるために目的など必要ないですよ。僕が70歳の時、生きる目的を捨てるために「隠居宣言」って本を書きました。この本で何を言っているかというと、生きるために目的や意味など必要ないと言っているんです。そんな大義名分のために生きるんだったら寝てた方がましですよ。目的がないから、したいことができるんです。遊びに目的がないように、人生には目的など必要ないんです。

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