オカメインコのマキは片時もわたしのそばを離れない。昼、わたしが目覚めたときは、いつも腕にとまって眠っている。マキ、起きよか──。腕にとまらせたまま台所に下りると、よめはんの肩に飛んでいって挨拶がわりに耳をつつく。マキちゃん、痛い──。よめはんが泣いてみせると、マキはよろこんでジジッと鳴く。マキは人間と同じようにサラダを食い、コーンスープを飲み、ピザやうどんを食う。いちばん好きなのがごはんで、茶漬けにすると二十粒くらいはあっというまに食って、そのあと自分の餌を食う。満腹になったら歌をうたいながら、テーブルの上を歩きまわって、いたずらをする。いまのお気に入りは鉢植えのレタスをバラバラにすることで、三日もすれば根だけになるから、またよめはんが買ってくる。

 わたしが仕事をしているとき、マキは机のそばで遊び、夜、寝るときはトコトコと布団のそばに来て、わたしの腕にとまる。マキは一日に十四時間は寝ているだろう。うちの庭に来るスズメやキジバトは夜明けから日暮れまで懸命に餌を探して生きているのに。

黒川博行(くろかわ・ひろゆき)/1949年生まれ、大阪府在住。86年に「キャッツアイころがった」でサントリーミステリー大賞、96年に「カウント・プラン」で日本推理作家協会賞、2014年に『破門』で直木賞。放し飼いにしているオカメインコのマキをこよなく愛する

週刊朝日  2021年4月16日号

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黒川博行

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黒川博行(くろかわ・ひろゆき)/1949年生まれ、大阪府在住。86年に「キャッツアイころがった」でサントリーミステリー大賞、96年に「カウント・プラン」で日本推理作家協会賞、2014年に『破門』で直木賞。放し飼いにしているオカメインコのマキをこよなく愛する

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