実際、IgA腎症では腎臓ではなく、口腔の奥の、舌の付け根の両側にある扁桃を摘出し、体内の炎症を抑えるステロイド薬を大量に投与する治療が標準となっている。堀田医師はこれに加え、上咽頭擦(さっか)過療法(EAT)という治療をしている。森本さんもこれらの治療を受けた。

 EATは0.5%に薄めた塩化亜鉛溶液を染み込ませた綿棒で上咽頭をこする、以前からある治療法で、健康保険も使える。“風邪を引くと腎臓が悪くなるのはなぜか”を突き詰めた結果、探し当てた治療法だった。

「EATを行うと、めまいや頭痛、肩こりなど、さまざまな症状が軽くなっていく患者さんが多かった。これまでの経験から、手のひらや足の裏に水疱(すいほう)が繰り返しできる掌蹠膿疱(しょうせきのうほう)症や、腸の病気である潰瘍(かいよう)性大腸炎やクローン病、慢性じんましん、関節リウマチ、慢性疲労症候群、起立性調節障害などのなかにも、改善が期待できるものがあります」(同)

 のどの炎症がなぜ全身の症状に影響するのか。

 堀田医師によると、外気を体内に取り込む入り口にあたるのどは、常に花粉やPM2.5、ホコリ、ウイルスといった異物にさらされている。こうした異物を排除するために免疫が働き、常に小さな炎症が起こっている。

 そこに新型コロナやインフルエンザのようなウイルス感染が起こったり、自身の免疫力が低下していたりすると、のどの炎症が強まり、咽頭炎や扁桃炎、風邪などを発症する。この病的な炎症が治らずダラダラと続く状態が慢性炎症だ。

「慢性炎症があると血管内に多くの炎症物質がたまるので、うっ血しむくみます。このむくみがのどの裏を通る迷走神経を刺激したり、脳の老廃物を排泄(はいせつ)するリンパ液の流れを滞らせたりするため、さまざまな全身症状が生じるのです」(同)

 のどの慢性炎症の大きなリスクとなるのは、口呼吸やストレスだ。

 口で呼吸をすると鼻のフィルターを介さず空気がのどに直接入ってくるため、異物にさらされやすくなる。一方、のどがなぜストレスに弱いのかはよくわかっていないが、ストレスからのどの炎症が悪化することは、よくあるという。

「慢性炎症があるかどうかは、耳の後ろの下にある首筋を軽く押してみるとわかります。痛みやコリを感じるようであれば、上咽頭に慢性炎症がある可能性が高い。温めて血流をよくするとうっ血が改善されます。また『鼻うがい』も有用です」(同)

(本誌・山内リカ)

週刊朝日  2021年4月9日号より抜粋