1月28日、参院予算委員会で国民民主党の伊藤孝恵氏が、菅義偉首相に孤独問題について「今はどの大臣が担当になるんでしょう」とただした。すると、菅首相は「厚労大臣です」と答弁。

 しかし、厚生労働省には、自殺対策推進室はあっても孤独や孤立問題を担当する部署はない。周囲からは「えっ!」という声が上がり、突然指名された田村憲久厚労相は「任命いただいたのか、ちょっとわからないんですが……」と困惑した様子だった。

 伊藤議員は、「そういったこともあって、質疑が終わると『孤独担当大臣』がツイッターで大きな話題になっていたんです」と話す。

 その後の調整で、省庁を横断的にカバーすることができる内閣府が担当することになり、坂本氏が担当大臣に。2月19日には内閣官房に孤独・孤立対策担当室が新設された。

 菅政権が国民民主党の政策を丸のみしたことに、「野党への分断工作」と見る人もいる。それには、国民民主党の玉木雄一郎代表はこう反論する。

「孤独を抱える人が追い込まれて自殺してしまっている現状を考えると、対策は急がなければなりません。そこに与党も野党も関係ありません。孤独問題を社会全体で考える契機にして、国会でも超党派での議論を呼びかけたい」

 坂本担当相は、まずは緊急対策として食事を提供するフードバンクへの財政支援や孤独・孤立問題を扱うNPO団体への支援強化を掲げる。これらは野党の提案を採り入れたものだ。その上で、政府の経済財政運営の指針となる「骨太の方針」に孤独・孤立対策を盛り込むという。

 政府による孤独対策はまだ始まったばかりで、課題も山積している。石田教授は言う。

「孤独は個人の主観的な問題で、行政が関与するのが難しい領域です。一方で、今の日本は個人がバラバラで頼れる人が少ないにもかかわらず、『他人に迷惑をかけてはいけない』という考え方が根強い。そのため、本当に支援が必要な人に届きにくい社会になっている」

 人と人がつながる仕組みをどう作るか。それが問われている。(本誌・西岡千史)

週刊朝日  2021年4月9日号