「家じまいをきっかけに、好きな物の見直しができた」(彬さん)と満足げだ。考えてもいなかったというマンション暮らしだが今年で13年目。彬さんは「ここが終のすみかになりそうだ」と話す。

「一軒家と違って、遠くからでもあそこに俺いるんだ、ってわかるのがいいねぇ。ベランダに真っ赤なねじねじを巻けば部屋までわかる。してないけどね(笑)」

 女優の高橋惠子さん(66)は、2年ほど前に郊外にある100坪もある豪邸を「家じまい」したが、「売れなかったので」この2月に戻ってきたばかりだ。自宅の庭のしだれ梅がとびっきり美しい季節だった。

「引っ越し中には、業者の方もおっしゃっていました。『梅の香りっていいですね』って」(高橋さん)

 50坪の庭では、ハーブやシソの葉、プチトマトなどを育てていた。特に植物への思いが詰まった家だった。

 家じまいを決めたのは、子どもが巣立ち、高橋さんの母親が他界したタイミングだったという。4年前から借りていたマンションが都心にあったこともあり、広すぎる一軒家を閉じ、そこで夫婦で暮らすことを選んだ。2年暮らした。その間一軒家は空き家として売りに出した。

「そのため、家の中の要らないものを全部処分したんです。勇気を出して断捨離、リセットですね。一度そういうことをしたのはすごく良かったと思います」

 荷物は3分の1ほどになり、気持ちも軽くなった。家に戻ってきたときは、

「不思議な感じでした。(荷物をまたひもといて箱から出すときは)デジャブ感いっぱいで、ここから新たなスタートという気持ちもするし、前からこういうふうに決まっていたような気もします。6年の旅をしてきてまたここに戻ってきたのです」

 そんなシナリオがあったような気がするのだという。築30年の愛着のあった家だ。家じまいをしたおかげで荷物は減り、壁や水回りなどもリフォームできた。

「心は新たな気分。しかも思い出の植物は残っている。結果オーライという感じ」

 子どもたちは「家も喜んでくれているんじゃない」と話しているという。前のマンションにあった「ゴムの木」は天井にぶつかりそうだったが、ここではのびのびと成長している。吹き抜け天井はまだまだ余裕がある。

「植物によって動かされたと感じています。改めて今わが家の良さを感じているところです」

 ずっとここに暮らしていくだろうと考えている。(本誌・大崎百紀)

週刊朝日  2021年4月9日号より抜粋