「汐凪の遺骨が見つかった場所です。2016年暮れに首の骨が見つかり、それから2カ月かけて少しずつ。残りの8割はまだ見つかっていません」

 木村さんは娘の捜索をやめている。わけを訊くと、「全部見つけてしまえば、私がここに来る意味がなくなる。汐凪はそれを心配しているんじゃないか。賑やかな場所が好きな明るい子で、人が来なくなることが嫌なのかなって。俺の思い込みなんだけど」

 娘を捜し続けながら木村さんはこの土地を守り、「伝えること」が自らのミッションと考えるようになった。

「世の中に対する教訓として残す意味がある。津波と原発事故を示す施設を残し、伝えていければいいなと思いました」

「遺骨をすべて捜してしまったら娘は寂しがる」。そう言う木村さんを長く取材している女性スタッフが、「でも汐凪ちゃんは、お父さん、私はもう大丈夫だからって言っているかもしれませんね」と寄り添った。中間貯蔵施設予定地にぽつんと取り残された庭。そこからは穏やかな春の海が見渡せ、白波が立っていた。

延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー。国文学研究資料館・文化庁共催「ないじぇる芸術共創ラボ」委員。小説現代新人賞、ABU(アジア太平洋放送連合)賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞など受賞

週刊朝日  2021年4月2日号

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延江浩

延江浩

延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー、作家。小説現代新人賞、アジア太平洋放送連合賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞、放送文化基金最優秀賞、毎日芸術賞など受賞。新刊「J」(幻冬舎)が好評発売中

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