「例えば、一緒に答えを考えるクイズ番組などを見ているときの脳は、ぼんやりとテレビを見ているときの脳より、活動が高まっています」

 要するに、興味のある番組を選ぼうということだ。その上で篠原氏が勧めるのは、なつかしい歌謡曲の番組。感情に関係する大脳辺縁系という部分が活性化するという。

 歌詞を思い出して歌ったり、当時の様子を振り返ったりすることは、有効性が示されている認知症ケアの一つ、回想療法の考え方に近い。

 なお、ちまたにあふれる脳トレ本。どう活用すれば効果的なのか。数多くの脳トレ本の監修をしている篠原氏は言う。

「実は、知的活動に関して科学的根拠が示されているのは、“頭を使うこと”という程度で、何をどうすればいいということまで解明されていません。脳トレ本に関しても、どんなドリルをやったほうがいいということはなく、やりたいときに集中して行うことが大事です」

 また、知的活動は脳トレ本に限らない。先に挙げた料理も、雑多な話題が載っている新聞や雑誌を読むことも、手紙やはがきを書くこともすべて知的活動だ。

「日々の取り組みで、ちょっとしたもの忘れなら、一過性の症状として終わらせることもできます。制限があるなかで大変でしょうが、チャレンジする気持ちを持ってほしい。やる気や生きがいを失うことこそ、認知症のリスクです」(前出・浦上医師)

 これからは「一人でできること」に関心を向けることも大事だろう。都内の居宅介護支援事業所を営むケアマネジャーの男性は、コロナの問題が起こる前までアクティブにもの忘れ対策をしてきた高齢者を心配する。

「今までずっと地域でボランティア活動をされていた元気な高齢者が、コロナ禍の自粛でそれができなくなり、『ボケてきた』と。そういう話は、昨年の夏から出ています」

 今回紹介した予防法を試して、脳の健康を維持していきたい。(本誌・山内リカ)

週刊朝日  2021年4月2日号