ドラマの中で、万俵大介は子供たちの家庭教師という名目で、妾を本妻と一緒に住まわせている。

「妾が本妻と一緒に住んでいるなんて悪いことに決まっている。今だったらありえないことですが、それもこれも大介に魅力や甲斐性があるからできていることだと思うんです。すべて正しいことばかりが行われる世界というのを想像してみると、実は息苦しくてつまらないんじゃないか。僕はそんなふうに思ってしまいますね」

 今の時代、正しさばかりが求められてしまうのは、SNSが普及したためでもあるだろう。

「SNSの発展によって、みんなが多様な意見を言えるようになっていきましたが、時に大多数の意見が『正』だとみなされる傾向がありますよね。その意見に取り残されるのを恐れるあまり、少数意見に一斉にバッシングが始まったりもする。少数意見のほうが『正』の可能性があるにもかかわらず、です。でも、少数意見が通らなくなったら、人間は退化してしまうのではないでしょうか。コミュニケーションツールの多くがデジタル化し、さらにコロナ禍でなかなか人に会うのが難しい状況ですが、僕はいつも心はアナログでいたいと思っています」

(菊地陽子 構成/長沢明)

中井貴一(なかい・きいち)/1961年生まれ。東京都出身。81年に映画「連合艦隊」で俳優デビュー。88年「武田信玄」で大河ドラマ主演。2003年の映画「壬生義士伝」では日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を受賞。昨年は、ドラマ「共演NG」でのコミカルな演技も話題となった。20年紫綬褒章を受章。NHK「サラメシ」のナレーションは10年にわたって続いている。

週刊朝日  2021年4月2日号より抜粋