もちろん、待遇面も気がかりだ。大和ハウス工業(大阪市)は、シニア層の意見を踏まえて工夫をこらしている。

 13年に「65歳定年制」を導入し、15年には定年後も年齢の上限がなく1年ごとに契約を更新できる再雇用制度を整えた。65歳以降を対象とする再雇用制度は原則、週4日勤務で給料は月20万円と“一見”下がってしまう。そこで、60~65歳の「シニア社員」として勤める間も、同社独自の企業年金の積み立てが現役世代と同水準でできるようにした。その結果、65歳以降も同年金と合わせて、シニア社員時代とそれほど変わらない額を受け取れる。業績や評価に応じた賞与も年2回出る。東京本社の菊岡大輔人事部長は次のように説明する。

「再雇用制度は導入後5年で対象となる従業員の5~7割にあたる150人余りが利用しています。住宅・建設業界は息の長い仕事が多く、技術者として培ってきた経験や技術がモノを言う。どの会社も優秀な人材の確保に苦労しています。当社にとって、シニア人材の活用は、費用ではなく、重要な投資として位置づけています」

 働くモチベーションを高めていくことも悩ましい。

 70歳就業法施行に合わせ、定年引き上げなどを検討中だという大手企業の人事担当者は「『自分はまだまだできる』と考えるシニアは多い一方、会社としては後進を育てる意味でも役職を譲ってもらわざるを得ない。社内の役割や給料を減らさざるを得ないなかで、いかにモチベーションを維持してもらうかが課題だ」とこぼす。

 前出の損保ジャパンは、シニア向けのキャリア教育に力を入れている。「シニアが活躍するにはキャリア・マインドをいかに変えられるかが大事」(人事担当者)だからだ。同社は「セカンドキャリア支援プログラム」などの研修を通じて社員自身がどのように働き、人生を送りたいのかを決めさせる。シニア社員も現役世代と同様の五つの目標を立て、評価する。評価に応じて収入も変わる仕組みだ。シニアといえども、目標や評価がないと、やる気の喪失につながりかねない。(本誌・池田正史、浅井秀樹)

週刊朝日  2021年4月2日号より抜粋

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池田正史

池田正史

主に身のまわりのお金の問題について取材しています。普段暮らしていてつい見過ごしがちな問題を見つけられるように勉強中です。その地方特有の経済や産業にも関心があります。1975年、茨城県生まれ。慶応大学卒。信託銀行退職後、環境や途上国支援の業界紙、週刊エコノミスト編集部、月刊ニュースがわかる編集室、週刊朝日編集部などを経て現職。

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