新国立競技場そばの五輪マーク (c)朝日新聞社
新国立競技場そばの五輪マーク (c)朝日新聞社

 東京五輪の脅威となりそうなのが、感染力が強い新型コロナウイルスの変異株だ。厚生労働省によれば、国内の変異株の感染者は3月16日までに26都道府県で計399人確認されたという。

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 だが、この数字はまったくアテにならない。各都道府県で抽出して変異株が判定できるPCR検査に回しているのは、新規感染者のわずか5~10%だけだからだ。政府は今後40%に引き上げるといっているが、本気で実態を把握する気があるのだろうか。独自に変異株調査に取り組む神戸市では、3月5~11日の1週間で英国型変異株の検出率が約55%にまで上ったのだ。

 医療ガバナンス研究所理事長の上昌広医師がこう語る。

「そもそも検査のキャパシティーが不足している感染研(国立感染症研究所)が仕切ろうとするから、まともに変異株のスクリーニングもできない。昨年、PCR検査を目詰まりさせたのと同じです。例えば英国政府は昨年3月、世界的な遺伝子解析センターのウェルカム・サンガー研究所をはじめ大学など多数の研究機関が参加する共同事業体を立ち上げました。現在、オールUKで変異株の研究を行っています」

 変異株は英国型やブラジル型、南アフリカ型だけではなく、起源不明のものも多数ある。新たな変異株を検知するためには、ウイルスのすべての遺伝情報を解析(シーケンス)するしかない。だが、感染研のシーケンス能力は最大で週800件。米国ではシーケンス能力を週2万5千件にするというから、雲泥の差だ。

 シカゴ大学名誉教授の中村祐輔医師が指摘する。

「新しい機器を使えば、1日6千件のシーケンスが可能です。最新のゲノム科学・技術がわかる人がいないのが、この国のコロナ対策の致命的なところ。感染研・地衛研(地方衛生研究所)・保健所という既存の枠組みだけでなく、大学病院など医療機関、民間検査会社と連携する必要があります。官民で総力を結集しなければ、早期の変異株PCR検査やシーケンス能力の強化は望めません」

 東京都の感染者数は3月19日までの7日間平均で297人。前の週の108.6%と微増した。懸念すべきは、無策のうちに変異株を蔓延させ、第3波が終わらないまま第4波へと突入してしまうことだ。

 前出の上医師が言う。

「第3波では10月ごろから感染者が増え始めて1月のピークまで、およそ3カ月かかっています。感染者が微増した3月中旬が助走期間になって4月から本格的に増え始めると、7月の五輪開催時にピークになる可能性が高い。緊急事態宣言下の大会になりかねません」

 PCR検査、ワクチン、シーケンスのいずれも世界から“周回遅れ”なニッポンのさだめなのか。(本誌・亀井洋志)

週刊朝日  2021年4月2日号