最も頻度が高い抗リン脂質抗体症候群は、細胞膜を構成しているリン脂質に対する抗体(抗リン脂質抗体)が、体内に作られてしまう病気だ。抗リン脂質抗体には血液をかためる作用があるため、胎児に酸素や栄養を送る血液がとどこおったり血栓(血の塊)ができたりして、流産を起こしやすい。この病気が原因の不育症は、妊娠中期以降に子宮内胎児死亡を起こすことも少なくないという。

 血液凝固にかかわる異常は、抗リン脂質抗体症候群以外にもいくつかある。血液中の第XII因子やプロテインS、プロテインCが少ない場合も血栓ができやすく、流産を引き起こす可能性がある。

 このうち第XII因子欠乏症とプロテインS欠乏症は、日本人に多いことがわかっている。杉ウイメンズクリニック院長の杉俊隆医師はこう話す。

「健康な日本人でプロテインSが欠乏している人は約2%、欧米人の10倍です。さらに日本人の不育症患者の約4%に、プロテインSにかかわる遺伝子変異があることもわかってきました」

 2019年、竹下医師や杉医師ら厚生労働省の不育症研究班は、こうした研究結果をもとに、欧米のガイドラインでは検査項目に入っていない第XII因子とプロテインSの活性を調べる検査を日本ではおこなうように提言した。現段階では、不育症との関連が明確とまでは言えないため、オプション検査として推奨されている。

「すべて欧米と同じにするのではなく、日本人特有のリスク因子を考えた検査や治療をおこなうことが不可欠です」(杉医師)

 一方、検査をしても約65%の人は明らかな異常が見つからない。なぜこれほどまでに多いのか。「二つの可能性がある」と、前出の竹下医師は言う。一つめは、現在の検査法では検出できない未知の原因があるケース。そしてもう一つは赤ちゃん側の染色体異常による自然淘汰の流産が、たまたま2回3回と重なってしまった場合だ。

「女性の年齢が上がるほど、赤ちゃんの染色体の異常は増え、流産率も高くなります。流産率は30代からは年齢とともに上昇し、35歳で約20%、40歳で約40%、42歳では約50%になるという報告もあります。近年、日本人女性の妊娠年齢は高くなっているので、たまたま自然淘汰の流産が重なってしまうこともあるでしょう」(竹下医師)

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