室井佑月・作家
室井佑月・作家
イラスト/小田原ドラゴン
イラスト/小田原ドラゴン

 作家の室井佑月氏は、自らの利益のために東京五輪開催にこだわる政治家を批判する。

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 3月4日の「日本経済新聞」によれば、「菅義偉首相は3日、1都3県への緊急事態宣言を延長する方針を表明した。当初は7日までの宣言期限までで解除する考えだったが、新型コロナウイルスの感染拡大防止を求める世論をみて急旋回した。東京五輪・パラリンピックや衆院選を控え、政権運営上の安全策を選んだ」そうだ。

 簡単にいってしまえば政府が、衆院選で自民党が勝つためには東京五輪・パラリンピックの開催が必要で(国威発揚狙い)、東京五輪・パラリンピックを是が非でも開くためには、世論にゴマをすっておこう、としたってことだよな。

 さて、それですべてが思い通りになるかしら? まず世論とのズレがある。

 あたしたちは新型コロナウイルスは怖い。はっきりした治療薬もなく、8千人もの死亡者が出ているのだから当然だ。頼みの綱のワクチン接種は、遅れに遅れている。

 しかし、緊急事態宣言下でずっと家に籠もっていたい、そう考える人はほぼいないだろう。

 だから、誰もが手軽にPCR検査を、と去年からいわれていた。感染していないとわかったら、堂々と動けるもの。

 つまりあたしたちは、科学的な根拠がある安心を得て、もう動き回りたいのだ。政府はそういうことが、ちっともわかっていないんじゃないか? 東京五輪だって、純粋にスポーツを楽しみたい人とおなじくらい、外国人観光客がやって来て日本が潤うことを期待していた人は多かった。

 なにしろ東京五輪が招致されると決まってから、テレビのワイドショーなどではさんざんこの国の景気が良くなると宣伝した。

 けれど、3月3日の「毎日新聞」によれば、「東京五輪、海外客受け入れ見送りで調整 コロナ拡大懸念に配慮」という。

 ということは、世界的なコロナ禍の中、東京五輪を開催するメリットより、世界から非難されるかもというデメリットの方が高いわけだ。

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室井佑月

室井佑月

室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中

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