そうやってコロナ禍でも、新たに身体性を開花させた草刈さんだが、日常生活を送る上では、“これがなきゃ”とか、“これをやらなきゃ”というこだわりはつくらないようにしているという。

「ダンサーだった頃、いろんなアクシデントの中で“とにかく踊らなければ”といった場面に何度も出くわしました。肉体を資本にしている私たちは、“いつ、どんな状態になってもできる”というのが理想。そのためには、常に、自分の中の変化をキャッチして、それに対応していくことが大切なんです」

 ミュージカル「The PROM」の稽古中である今は特に、毎日やっていることが違うので、決まったルーティーンはないらしい。もちろん、本番に向けて毎日身体を入念に調整しているが、これといった決まり事はつくらない。その時々の体の声を聞くこと。いつでも、どこでも動ける状態に持っていくこと──。心身ともに柔軟であることが、草刈さんの健やかさの秘訣なのかもしれない。

(菊地陽子 構成/長沢明)

草刈民代(くさかり・たみよ)/1965年生まれ。東京都出身。87年全国舞踊コンクールバレエ第一部第1位、文部大臣奨励賞を始め、数多くの賞を受賞。96年の映画「Shall we ダンス?」(周防正行監督)に主演し、日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を受賞。バレエを引退後は女優に軸足を置きつつ、国内外の公演でアーティスト、プロデューサーとしても活躍。4月からドラマ「イチケイのカラス」に出演。

週刊朝日  2021年3月19日号より抜粋