ダンスの舞台では、自分で踊るだけでなく、全体の構成を考えて、ダンサーに指示も出す。ドラマでは芝居に専念できるが、ミュージカルでは歌いながら踊らなくてはならない。50代半ばになって、人生でもっとも忙しい時期を迎えた。

「でも、一度にいろんなことをやることになって、かえって身体的なことへの理解は深まりました。多分、ここまでやらないと、先のことは見えなかった。毎日毎日、対極のことをやらなくちゃいけなくて、とにかく必死でしたが、結局は、何がどのように身体に影響をしていたのかがわかってきて、もうひと段階上のところにいかないと見えてこなかったものが、少しずつ見えてきた感じなんです。常に崖っぷちにいたからこそ見えたことかも(笑)」

 追い込まれることで、いわゆる“高み”に到達しているのだろうか。草刈さんのように、いくつになっても成長していくためにはどうしたらいいのだろう。「まだまだ成長したい大人に、何かアドバイスするとすれば?」と聞くと、「まずは、“受け入れる”ことから始めてみてはどうでしょう?」という答えが返ってきた。

「年をとると、一番できなくなるのが、“受け入れる”ことだと思うんです。私も、踊りに関しては、誰かに何かを言われることはもうないですが、歌だと、『そういうときは、こういう表情で歌うほうがいい』とか『目線はここに置いたほうが声は出ますよ』とか、本当にいろんな指摘を受けます。表現って、個人のことだから要求された通りにできることばかりではありませんが、技術は別ですよね。よりよくする上で大事なのは方法だと思っています。助言を受け入れられない人は、自分は何ができていないかがわからないのかもしれない。でも、成長するためには、自分のダメな部分を本気でわかろうとしないと。追い詰められる状況でないと、なかなか難しいことかもしれないですけどね」

 変化するのが面白いのではなく、理解することが面白いのだと言って、草刈さんは微笑んだ。また、「理解したことを身体に叩き込むには、本気で労働しないといけない」とも。

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