延江浩(のぶえ・ひろし)/TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー
延江浩(のぶえ・ひろし)/TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー
向田邦子展関連(『寺内貫太郎33回忌』『向田邦子 風のコンサート』『向田邦子の贈り物』)配信は3月10日24時まで。テレビマンユニオンチャンネルhttps://members.tvuch.com/mukoda/
向田邦子展関連(『寺内貫太郎33回忌』『向田邦子 風のコンサート』『向田邦子の贈り物』)配信は3月10日24時まで。テレビマンユニオンチャンネルhttps://members.tvuch.com/mukoda/

 TOKYO FMのラジオマン・延江浩さんが音楽とともに社会を語る、本誌連載「RADIO PA PA」。「向田邦子さん」について。

【写真】向田邦子展関連(『寺内貫太郎33回忌』『向田邦子 風のコンサート』『向田邦子の贈り物』)

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 向田和子さんに取材でお会いしたのは雨降る冬の午後だった。向田邦子さんの妹で、飾らない口調と笑顔が素敵な方だった。向田家が杉並に住んでいた頃の飼いを「東大出」と呼んでいたことを知った。本名はロク。賢いロクは目ざとく外に飛び出てしまうから小型犬用の首輪をつけ散歩に連れ出すことにした。発案は姉の邦子。「姉は夜10時過ぎに仕事から戻ると、『お前は東大出だろ、早く道を覚えなさい』なんて言いきかせて(笑)」。でも隙を見て逃走してしまう。「おーい、どこ行った東大出、と呼んでも帰って来ない。3日目の夜11時過ぎに帰ってきてほっとしたことも。泥だらけになって帰宅のロクに『和子、何とかして』って言われ、猫用ソックスを編んで紐をつけてはかせたらロクは嫌だ嫌だってタコ踊り。『ほんとに和子はバカだね』って姉は大笑い。ちょっとした、どうってことのない話を面白くするのが姉でした。つまらないことも楽しくまじめに。姉はおっちょこちょいでもあった」

 高円寺の恋人にも邦子はそんな話を披露していたのだろうか。恋人の撮った横顔がデザインされた旗がはためく青山のスパイラルに向かった。

「向田邦子 没後四〇年特別イベント『いま、風が吹いている』」のプロデューサー、テレビマンユニオン合津直枝さんは、「『ゼロになったら力が湧く』。そんな邦子の言葉が今のコロナの時代に響く。向田さんの小説やエッセイは今も読まれ続けているし、開催の意味があると思いました」

 時を忘れ、長い間会場にいたのは居心地が良かったから。邦子の抜群のセンスはグリーン、ブラウン、ネイビーと色違いで揃えたエルメスのポロシャツを観ればわかった。ケニア旅行で被った麦わら帽子と茶と黒のバリーのパンプスも。そして直木賞授賞式に着た水玉のワンピースに藤田嗣治のリトグラフ、池波正太郎や沢村貞子の本……。

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延江浩

延江浩

延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー、作家。小説現代新人賞、アジア太平洋放送連合賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞、放送文化基金最優秀賞、毎日芸術賞など受賞。新刊「J」(幻冬舎)が好評発売中

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