春風亭一之輔・落語家
春風亭一之輔・落語家
イラスト/もりいくすお
イラスト/もりいくすお

 落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は「渋沢栄一」。

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 ちょっと前に1万円札がこの方になると聞き、「ほうほう、そういえばそんな人、日本史で習ったなぁ」と、息子の教科書を借りてきて、ぼんやりとそのお顔を眺めていると「かあさ~ん。爪切り、どこいっちゃったかな~?」と、台所に居る奥さんに、自分で捜せば何とかなるようなモノのあり場所を聞き、「目の前にあるでしょう!」と呆れられ、おまけに切った爪を辺りに飛ばして「ゴミ箱に捨ててくださいよ!」と怒られる、定年したばかりの人の好いお父さんに見えてきました。渋沢栄一。話すときに句点がなさそうな顔だなぁ、とも思います。だからつられてしまったの。「もー、お爺ちゃん。何が言いたいかわからないからハッキリしゃべってよ!」とか孫娘に言われてそう、渋沢栄一。いっそのこと区切りまくって「渋沢、栄一。」でどうだ? 間に読点、終わりに句点を入れるとちょっと主張がありそうなかんじです。少しの工夫でこんなに変わる渋沢栄一。驚いたか、孫娘よ。

 平泉成と河原崎長一郎を足して、上からお湯をかけて10分どん兵衛にしたような、そんなお顔の渋沢栄一。平泉成も句読点を入れると、かなりトンガってるね「平泉、成。」。河原崎長一郎は長いから普通に句読点打ちたいよね「河原崎、長一郎。」。河原崎長一郎さん、懐かしいな。「意地悪ばあさん」の息子役でしたね。調べてみると歌舞伎の名優・四代目河原崎長十郎丈のご子息。父上は熱心な共産主義の信奉者で、中国の文化大革命を支持して日本共産党を除名されたり、所属していた前進座を除名されたり大変な方だったようです。あ、長一郎さんは『白い巨塔』の佃先生もやられてましたね。

 ん? なんだっけ。そうそう、渋沢栄一だ。女好きだったらしい。艶福家。初めてこんな単語を書いたな。栄一のおかげ。「豊」と「福」で「色」を挟み撃ち。しかも渋沢。ダブルでサンズイ。栄一、びしょびしょ。なんでも本妻とお妾さんと同居していたとか。詳細は知りませんがメンタル強すぎ。子どもが20~50人いたそうで、ハッキリしていないというのがたまらない。『ウルトラの父』みたいなシンボリックなお父さんじゃなくてリアル子だくさん。

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春風亭一之輔

春風亭一之輔

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/落語家。1978年、千葉県生まれ。得意ネタは初天神、粗忽の釘、笠碁、欠伸指南など。趣味は程をわきまえた飲酒、映画・芝居鑑賞、徒歩による散策、喫茶店めぐり、洗濯。この連載をまとめたエッセー集『いちのすけのまくら』『まくらが来りて笛を吹く』『まくらの森の満開の下』(朝日新聞出版)が絶賛発売中。ぜひ!

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