東京都+神奈川県+埼玉県+千葉県を首都圏と呼んでいるが、この1都3県をちょうど合計した面積が福島県で、福島県は、東京都の6.3倍だ。この広大な地域のかなりの部分が、放射能に汚染されて住めなくなり、住民は遠くに追い立てられ、戻れなくなった。日本がどれほど長い歴史をもっていても、こんなことは初めての出来事だ。言い換えると、農業県の福島県から、大量の食べ物を送ってもらって生きてきたのが、食料自給率1%、ほとんどゼロの東京都だった。そもそもオリンピックを、なぜ日本で開催するのかね。

 10年前に自衛隊がフル装備で装甲車に乗ってきたのを見て驚愕(きょうがく)して逃げた人たちの自宅は、この10年の間に、野生のイノシシや猿やハクビシンや、泥棒の侵入によって、原野のように日々ますます荒れ果てていった。恋しい自宅を何度か訪れるうち、「こりゃダメだ」と感じて、最後は更地にするしか手がなかった。家も解体されて、更地になった。原発事故のために、帰る場所がなくなったのだ。

 福島第一原発がある大町と双葉町で、避難指示が解除され、「3000億円もかけて除染したから、自宅に帰って下さい」という地域でも、若い人は放射能の寿命を知っているので戻らない。帰る人は数少なく、高齢者ばかりで、一番多いのは70代で、その中でも車の運転のできる人だけだ。除染したと言っても、里山は手つかずだから、よく言われるのは「除染したが、再び線量が上がってきた」という話だ。2019年10月の19号台風で福島県は大被害にあった。川は氾濫(はんらん)して決壊し、高濃度に汚染された山林の土砂が崩れて、道路へ、農地へ、住宅へと流れ出した。「安全です」と言ってくれるが、その後、何年過ぎても除染作業が続いている。放射能を取り除いたはずなのに、変だと思わない? コロナと同じかね。いや、コロナはいつか終息するけれど、放射能は永遠に消えないんだ。病院もないところへ若い娘や息子に戻ってこいと言えるかね。

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