小泉武夫
小泉武夫
ワカサギ。北海道の湖や川に広く生息していて、茨戸川では漁も行われている
ワカサギ。北海道の湖や川に広く生息していて、茨戸川では漁も行われている

 発酵の摩訶不思議な世界に人生を捧げ、希代のグルマンとして世界中を旅してきた小泉武夫さん。人生の第2ステージ・石狩での研究とグルメ三昧の日々を綴る本シリーズで、今度はワカサギ釣りに挑戦。揚げたてをハフハフしながら頂く!

【写真】さてこの日の釣果は?

 真冬、石狩川水系の茨戸川では多くの人々が氷上でワカサギ釣りを楽しむ。私も親船の水産加工場で働いている二人の若者に誘われて生まれて初めて体験した。当日の朝八時には、すでに多くのカラフルなテントが氷上に張られ、釣りが始められていた。比較的にテントが密集している場所を選びそこにテントを張った。誰もいないようなポツンと離れた氷上であると、ワカサギは散っていてあまり釣れず、釣り人が多いところに集まる習性があるというのである。

 若者たちは毎年釣りに来ているそうで、とてもテキパキとしていて要領がいい。見ていると、先ず手回しドリルで氷に三つの穴を開け、開けた穴に浮く氷を網できれいに掬い取った。そして次に、その穴の上にワカサギ釣り用の三人入りアイスフィッシングテントを張った。仕掛けは、長さ六〇センチの釣り竿に、針が七本ついて先端に重りが固定してある全長一メートル一〇センチのテグスをつないだものである。そして七本の針にサシという虫を一匹又は半匹刺して釣るのである。この釣餌はギンバエ類の幼虫で、魚に目立つように赤く染めたものを「ベニサシ」、染めないものを「シロサシ」というそうである。

 さて、こうして私を誘ってくれた二人の若者たちはめいめいに竿を持ち釣り始めたのであるが、さすがは毎年のように竿をおろしている二人のこと、ワカサギ釣りのコツを熟知しているらしく、面白いように釣り上げていくのであった。そして釣り始めて二時間もすると、二人で八三尾ものワカサギを釣り上げていた。私も彼らの脇でずっと釣っていたのであったが、収穫はたったの八尾で、この釣りの経験の差が物をいうのは恐ろしいほどだと思った。

 そのワカサギは体長七~八センチほどの粒の揃ったもので、体表は白銀色に輝き、目はクリクリと光って澄んでおり、実に美しいものであった。私たちはもうよかろうと釣りを止め、テントをたたんでからそのワカサギを持って親船研究室に車で向った。ワカサギの天麩羅で一杯飲ろうということになったのである。

 私のいる研究室の隣は、調理室兼休憩室にもなっていたので、そこで天麩羅を揚げることにした。

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