日本での初演はトランプ政権が誕生した年(2017年)だった。

 齢50を超えた石丸はミュージカル俳優として今後どう生きていくかを考え抜き、人種問題の溝と人間の業を身をもって表現する気概で初演に臨んだ。

 奇遇にも再演の今回はトランプの退場と重なったが、周知のようにトランプ政権は多くの傷跡を残したままだ。

「上演中、3日に一度はマッサージで体を解(ほぐ)した。それだけ大きなものを背負った」という石丸は、連邦議会議事堂に乱入したトランプ支持者が手にした南軍旗を報道で眺め、再演の嬉しさよりも、この旗の下で演技する重さと使命感を感じたと回想した。

 やるせなさの中、死に行く主人公に分断の哀しみを感じ、僕はサイモン&ガーファンクルの『アメリカ』を口ずさんだ。♪虚しい。どうしてだろう♪

 60年代末、泥沼化するベトナム戦争に揺れる母国を想う若者の呟きがアメリカの姿を象徴する曲だ。

 パレードという奇妙な明るさの奥底に横たわる近現代アメリカの闇の系譜を気づかせる別格のミュージカルだった。

延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー。国文学研究資料館・文化庁共催「ないじぇる芸術共創ラボ」委員。小説現代新人賞、ABU(アジア太平洋放送連合)賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞など受賞

週刊朝日  2021年3月12日号

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延江浩

延江浩

延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー、作家。小説現代新人賞、アジア太平洋放送連合賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞、放送文化基金最優秀賞、毎日芸術賞など受賞。新刊「J」(幻冬舎)が好評発売中

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