患者数は1千万人以上といわれ、そのうち、耳鳴りを苦痛や不快に感じている人は300万人程度とされている。


 耳鳴りが起こるしくみについて、東北大学大学院の川瀬哲明医師はこう話す。

「一般的に、耳鳴りは、難聴などにより耳の聞こえが悪くなると起こります。耳鳴りが起こるメカニズムについては、まだ解明されていないこともありますが、難聴により耳から脳に伝わる電気信号が減ることが引き金となり、脳の活動が変化するために起こると考えられています」

 本来、耳からはさまざまな音が入り、その刺激が電気信号として脳に伝わる。しかし、難聴により刺激が伝わらなくなると、脳がその刺激をキャッチしようと過剰に興奮し、そのせいで耳鳴りが発生する。つまり、耳鳴りとは「不足している音を補おうと脳が働きすぎるために起こるもの」ともいえる。

 このように、耳鳴りの多くは難聴が原因で起こり、耳鳴りで受診した人の90%に難聴があるといわれている。一方、難聴で受診した人のうち、耳鳴りがあるのは70%程度で、川瀬医師は「耳鳴りの感じ方には個人差が大きい」と言う。

「検査上は同じくらいの耳鳴りであるにもかかわらず、耳鳴りをほとんど意識せずに日常生活を送れる人もいれば、とても気になって悩ましく感じる人もいます」

 そして、一度気になり始めると、耳鳴りがするとイライラしたり、憂鬱になったりし、そのせいでよけいに耳鳴りが気になるという悪循環に陥る。

「例えば、ふだんは気にならない冷蔵庫やエアコンの音でも、夜、眠れないときにはとても気に障ることがありますね。音の気になり方は、感情や記憶などに影響されやすいものです。問題になるのは耳鳴りが聞こえることではなく、そのせいで気持ちや生活に影響が出ることといえるでしょう」(川瀬医師)

 耳鳴りによる苦痛は「生活を楽しめない」「不眠」「うつ」などに発展することも。そのため、耳鳴りを苦痛に感じたら、早めに補聴器相談医のいる耳鼻咽喉科を受診してほしいと川瀬医師は話す。

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