鹿児島県の伊佐市役所大口庁舎 (c)朝日新聞社
鹿児島県の伊佐市役所大口庁舎 (c)朝日新聞社

 難関大学に合格すれば100万円支給します──。鹿児島県伊佐市が、深刻な生徒減少に歯止めをかけようと打ち出した奨励金制度。8年目を迎える2021年度をもって終えることになった。

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 市内には、創立99年の歴史を持ち、地域に根ざした県立大口高校がある。卒業生には、漫画「スラムダンク」の作者、井上雄彦さんらがいる。14年度に導入された奨励金制度は同高の生徒が対象で、旧帝大や早慶といった難関大に合格したなら100万円を、他の国公立大なら30万円を、それぞれ支給してきた。

「大口高の普通科は14年度当初、3クラスが2クラスになるほど入学者が落ち込みました。これに危機感を抱いた前市長が奨励金を設けました。しかし、人口減少で生徒数が減るなか、拍車をかけるように市外の私立高へ優秀な生徒が流れていきました。奨励金ではなかなか効果が得られず、21年度の入学出願者は1クラスに相当する40人余りにまで減っています」(市教育委員会担当者)

 当初は「お金で引き寄せるな」などと批判も受けた奨励金の効果は、限定的だったという。昨年11月に橋本欣也市長が就任し、見直された。

 教育ジャーナリストの神戸悟さんは指摘する。

「昨年、高校男子バスケットボールの名門である能代工業高(秋田県)が統合によって校名が消えることが決まったばかり。大学も少子化問題に直面しているように、地方の中学・高校でも20年ほど前から統合を余儀なくされるほど、少子化のインパクトを大きく受けています」

 地方の公立高で人気なのは、県内トップ校級に限られる。近年は私立の進学実績が上がり、経済力のある家庭は私立を選ぶことも増えている。

「生徒が少ないと、競争による向上心が働きにくくなることも考えられます。生徒が多ければ学習レベルに合わせてクラス分けし、効率よく授業しやすい。1クラス規模の少なさだと、どのレベルで授業を進めたらいいのか、判断が難しくなると思います」(神戸さん)

 地方の少子化と教育現場の悩みは深い。(本誌・岩下明日香)

週刊朝日  2021年3月12日号