そこで先ず頭部の方をしゃぶってみようと、その裂け口に口をつけ、舌でペロペロと舐めたりチュウチュウと吸ってみると、中から真っ黄色いいわゆる蟹味噌が出てきて口中に広がった。その味はとても優雅で、ペナペナとしたコク味もあって絶妙であった。

 一方胴の方は脚を去り、殻をむしり取って出てきた真っ白い肉身を口に入れて噛むと、ポクポクとした歯応えの中からエビや蟹に特有の、あの甘いうま味がチュルチュルと湧き出してきたのであった。それにしても、アメリカザリガニがこんなに美味しいものとは、あらためて見直しながら、そのときは全部のザリガニを平らげ、大満足の朝食であった。

 冬、茨戸川は全面にわたって結氷する。これほど大きな三日月湖が氷に閉ざされ、白銀の世界へと変身する。そして、この白銀の世界に、ほどなく赤、黄、緑といったとてもカラフルなテントの花が咲くことになる。この三日月湖は、ワカサギの棲息数では北海道有数を誇り、多くの人が凍結する氷上で釣りを楽しむのである。
 ワカサギ釣り真っ盛りのある日曜日、私は親船の水産加工場で働いている二人の若者に誘われて生まれて初めて氷上でのワカサギ釣りを体験した。 (続く)

■小泉武夫(こいずみ・たけお)/ 1943年、福島県生まれ。東京農大名誉教授で、専攻は醸造学、発酵学。世界各地の辺境を訪れ、“味覚人飛行物体”の異名をとる文筆家。美味、珍味、不味への飽くなき探究心をいかし、『くさいはうまい』など著書多数。

週刊朝日  2021年3月5日号から抜粋