阪神の藤浪晋太郎(C)朝日新聞社
阪神の藤浪晋太郎(C)朝日新聞社

 阪神の開幕投手争いが混沌(こんとん)としてきた。

 エースの西勇輝が2月23日にぜんそくの検査のために緊急帰阪。キャンプ中もせき込む姿が見られ、腰を痛めるなど万全の状態ではなかった。さらに、左腕エースとして期待される高橋遥人も右脇腹の筋挫傷でキャンプ中盤に離脱。開幕には間に合わない可能性が高い。

「昨季11勝(5敗)を挙げた西勇は、今年も先発の中心で1年間回ってもらわなければ困る。開幕に向けて急ピッチで仕上げると故障のリスクがあるし、首脳陣は長いシーズンを考えて慎重に調整させるでしょう。代役は昨季11勝(3敗)を挙げた秋山拓巳が有力候補ですが、藤浪晋太郎の可能性も十分にあり得ます」(スポーツ紙阪神担当記者)

 かつてはエースだった藤浪も制球難でフォームを崩し、近年は苦しんでいる。昨季は1勝(6敗)のみ。ただ、復調の兆しが見えている。昨年9月中盤に救援に配置転換されると防御率1点台と安定感を取り戻し、11月に先発に戻ると、4日のヤクルト戦(甲子園)で6回無失点、11日のDeNA戦(甲子園)も5回無失点と快投を見せた。

 昨オフからワインドアップに再挑戦したのも自身のフォームに迷いがなくなった証しだろう。先発登板した2月21日の広島戦(宜野座)で3回無失点3奪三振の快投。直球は最速156キロを計測し、カットボール、スライダーの制球も良かった。圧巻は野間峻祥から空振り三振に奪った147キロの高速フォーク。藤浪の投球を視察した他球団のスコアラーは、こう話す。

「もともと持っているエンジンが違う投手。潜在能力の高さは大谷翔平に負けていない。ここ最近は投球フォームに悩んで、打者と対峙(たいじ)する前に自分と戦っている感じだったが、今は腕がきっちり振れて伸び伸び投げている。まだ調整段階でこれだけの投球ができる時点で次元が違う。開幕投手? あるでしょう。このままオープン戦で調子を上げていけば、抜擢(ばってき)されても不思議ではない」

 ただ、藤浪の開幕投手の話が「現実的ではない」という指摘も一理ある。阪神の先発投手争いが熾烈(しれつ)だからだ。西勇、高橋、秋山に加え、2019年から2年連続で規定投球回を達成し、昨季7勝(9敗)をマークした青柳晃洋、昨季は救援登板が多かったが先発もできる左腕・岩貞祐太、さらに、日米通算95勝のチェン・ウェイン、韓国リーグ20勝右腕のアルカンタラ、ドラフト2位の新人左腕・伊藤将司も新たに加入した。藤浪が先発ローテーションをつかむためには、練習試合、オープン戦で結果を出してこの競争を勝ち抜かなければいけない。

 阪神は昨オフ、チェン、アルカンタラ、昨季韓国リーグ2冠王のロハス、ドラフト1位で即戦力ルーキー・佐藤輝明の獲得に成功するなど、戦力では「巨人より上」という声も。ただ、大きな難関はその巨人戦だ。昨季は直接対決で8勝16敗と大きく負け越すなど、9年連続カード負け越し。16年ぶりのリーグ優勝に向け、「打倒・巨人」のキーマンに藤浪の復活を挙げる識者は多い。

「巨人を日本シリーズで2年連続して圧倒したソフトバンクは、150キロを超える直球を常時投げられる投手がゴロゴロいます。セ・リーグでは少ないですが、藤浪はその希少価値を持った投手です。先発で1年間稼働して、チームが巨人に直接対決で勝ち越せば、優勝も見えてくるでしょう」(スポーツ紙デスク)

 悔しさを糧に生まれ変わった藤浪が輝きを取り戻せるか――。(梅宮昌宗)

※週刊朝日オンライン限定記事