保阪正康(ほさか・まさやす)/1939年生まれ。ノンフィクション作家。同志社大学を卒業後、編集者を経て作家に。『昭和陸軍の研究』など著書多数。2004年、第52回菊池寛賞受賞。近著に『陰謀の日本近現代史』(朝日新書) (c)朝日新聞社
保阪正康(ほさか・まさやす)/1939年生まれ。ノンフィクション作家。同志社大学を卒業後、編集者を経て作家に。『昭和陸軍の研究』など著書多数。2004年、第52回菊池寛賞受賞。近著に『陰謀の日本近現代史』(朝日新書) (c)朝日新聞社
「週刊朝日」と戦争 (週刊朝日2021年2月26日号より)
「週刊朝日」と戦争 (週刊朝日2021年2月26日号より)

 権力はメディアを操って戦意を高揚させ、国民を戦争に導く。利用されたメディアは、戦争で売り上げを伸ばす。過去、何度も繰り返されてきた戦争とメディアの関係だ。

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 太平洋戦争中の週刊朝日も例外ではなかった。開戦前から「日米の対立は宿命である」と題した記事を掲載するなど、日本中が焦土になった戦争を賛美した過去がある。

 実際の誌面はどのようなものだったのか。記者たちは軍の圧力にどのように屈していったのか。本誌「週刊朝日」は99周年を迎える今年、昭和史を研究するノンフィクション作家で、近著に『陰謀の日本近現代史』(朝日新書)がある保阪正康氏を取材し、これまであまり触れられてこなかった戦争中の記事を検証した。

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 記事が“興奮”している。一目でそれとわかる誌面だ。

 ハワイ・オアフ島の真珠湾に日本海軍350機が奇襲攻撃を仕掛けた1941年12月8日、日本は米国を相手に戦争を始めた。これが破滅への道につながったことは今では誰もが知るところだが、開戦特集を組んだ週刊朝日(12月28日号)には、戦争を賛美する言葉が躍った。

「皇道世界維新戦」「日本は神国である」「八紘一宇」……。真珠湾攻撃は国民にとって「待ちに待った開戦だ」と、うかれたトーンが目立つ。保阪氏はその意味をこう分析する。

「当時の週刊朝日の誌面を読むと、記事に『戦争の物語性』を入れることを重視していたことがわかります。世界史的な文脈から戦争を必然的なものと位置づけ、日本人は他民族より勝っているという根拠なき優越感が語られている。そこに冷静な思考はありません」

 開戦特集号では、大本営海軍報道部の平出英夫大佐のインタビュー記事「ハワイ マレー沖 両大海戦を讃ふ」が8ページにわたって掲載された。

 平出は、奇襲作戦が成功した理由は、「米軍は土日に訓練を休むから」という珍妙な分析を披露。こう語っている。

「日本の海軍には土曜も日曜もない、いわゆる月月火水木金金という曜日でやっているし、夜になれば、さあ、これからが猛訓練だというわけで、とても訓練の状況が違うのです」

 そして、日本兵の「精神力」が、米軍に打撃を与えたと力説する。

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