対象者は、頭頸部がんの患者。頭頸部がんとは首や顎、鼻、口の中、喉などにできるがんの総称で、国内に数万人の患者がいると推定されている。標準治療後または標準治療の適応とならない、進行した患者、再発した患者が対象だ。

 研究は、千葉大学と「理化学研究所」が共同で進めている。この共同チームの代表で、千葉大学大学院医学研究院教授の本橋新一郎医師に、まずNKT細胞が何かを聞いた。

「NKT細胞とは、自然免疫系に属するリンパ球の一種です。千葉大学のチームが1986年に発見しました。自然免疫とは、入ってきた外敵に真っ先に反応し退治するパトロール隊のようなもの。NKT細胞はがんに対して必要なサイトカイン(免疫細胞から分泌されるタンパク質の総称)を活性化して味方を増やし、がん細胞を殺傷する強い能力を持ちます。人の血液中にわずかしか存在しないので、実用化はむずかしいとされてきました」

 iPS細胞を使えば大量のNKT細胞をつくることができ、がんを攻撃できると期待されているのだ。

 この臨床研究のユニークなところは、はじめに健康な人、つまり他人から性能の高いNKT細胞を取り出し、iPS細胞にして増やした上で、再びNKT細胞(iPS-NKT細胞)に変化させる点だ。このプロセスに2~3カ月かかるという。

「特異的な抗原受容体(体内に侵入した異物をリンパ球の表面で認識する分子)がすでに選択された状態でiPS細胞になるので、そこからリンパ球をつくると自動的にNKT細胞ができる仕組みです」(本橋医師)

 これまで、免疫細胞を使ったがんの治療は血液がんでは効果があったが、固形がん(血液がん以外の総称)では効果があまり見られなかった。一度iPS細胞にすることで初期化され、それからつくったNKT細胞は免疫の働きを持つ物質を多く分泌することができる。

 千葉大では、他人ではなく患者本人のNKT細胞を個別にいい状態にしてそのまま移植する治療法を先に実施。がんが小さくなるなどの一定の効果が見られた。しかし、技術的にむずかしく時間もかかるため進行がんの患者にとって、その時間は酷だ。今回の臨床試験では、比較的早く移植できる他人のNKT細胞を使っている。

 今回の治験の主な目的は安全性を確かめることで、併せて有効性なども調べているという。

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