「一部には、『日本発の技術を世界に!』という国策やムーブメントのなかで公的資金を集中させたことや、成果が出ていないことにも批判があります。私は現在進められているiPS細胞の臨床研究には有効性を感じていますが、ノーベル賞受賞直後にマスコミが夢に描いたような“何でも治せるバラ色の技術”ではなくて、現在治験などが進められているような一部の病気に有効なものだとわかってきたのです。iPS細胞を使った臨床研究は、身の丈に合った規模になっている状況ではないでしょうか」(奥医師)

 日本が、再生医療の中でもiPS細胞の臨床研究に大規模な投資をしていることについて、岡野医師はこう話す。

「そもそも再生医療には、『遺伝子治療』、『遺伝子改変細胞治療』、iPS細胞を含む『細胞治療』の三つがあります。細胞治療だけでなくほかも研究するのが世界標準だと思います」

 なお奥医師は、iPS細胞ともES細胞とも異なる、第3の技術が登場しつつあることにも注目している。

「例えば、ミネソタ大学の研究チームが独自の3Dプリンターを使って半球面上に完全な光受容体を配置することに成功しました。これは視力回復につながるバイオニックアイをつくるための重要な一歩です」

 13年度から10年間の計画で再生医療に対して約1100億円もの国費が投入された。その10年計画が終了する23年以降の方針は、まだ決まっていない。医師や研究者たちがiPS細胞の可能性を信じ、日々研鑽している今、未来予想図は具体的に更新されている。しかし世界各地でさまざまな研究が日進月歩で進化しているのも事実。何が医療の歩みを大きく進めるのか、注目していきたい。(小久保よしの)

週刊朝日  2021年2月26日号より抜粋