「『もっとこうしてほしい』って監督に言われて自分ができるようにするためには、ニュートラルでないと。キャラクターを作りすぎてしまうと、『そうじゃない』と言われた瞬間に、何もできなくなってしまう。ただ、プロの役者さんたちには、『こうあるべき』とか『ここに自分を追い詰めていこう』という意識が働いている。プロの役者じゃない俺が、そんな長時間、自分を追い詰められるわけねぇじゃん!(笑)」

 と、自らの役にかける情熱の塩梅をユーモアたっぷりに分析した。一方で人から注文を受ける芝居が、「ある意味、癒やしになっている」という。

「映画に出ると、監督やカメラマン、スタッフたちに注文されるんですよ。『ちょっと下がってほしい』とか『何歩歩いてセリフを言ってほしい』とか。そういう、注文するという行為は、自分が音楽でやっていることなんです。ドラマーやベーシストやキーボードに、『もうちょっとこういう音出してくれる?』とか、注文出すのは面白いけど、人に注文されて、『ああ、こうやればいいんだ』と思ったり『OK!』をもらうのは、それができたってことだから、楽しいですよね。それは俺の人生の中で一番癒やされている時間かもしれない。人に言われたことをやって、クリアできたら、すげぇ楽しい(笑)。だから、役者のお話がきたら、尻尾振っていくんです」

 役との付き合い方はニュートラル。でも、日々の暮らし方の中にはミュージシャンらしいこだわりもある。

「最近は毎朝9時に起きて、自分でスムージーを作るのが日課。ここ1年は、コロナで旅公演もできてないんだけど、ただ、生涯の決め事として、1日1曲、曲を書くっていうのがあるわけ。書けないよ。書けるわけねぇんだよ(笑)。でも、1日1曲は曲を書くっていう目標を掲げているから、朝飯を食ったら、必ずスタジオに行く。そこで、音を出す」

 一小節でも二小節でも、メロディーを書けたらOK。次の日、その続きを書いてもいい。

「1日1音でもいいから、自分の音を出してみることが大切なんですよ」と宇崎さん。音楽家としての“本性”が垣間見えた。

(菊地陽子 構成/長沢明)

宇崎竜童(うざき・りゅうどう)/1946年生まれ。東京都出身。73年ダウン・タウン・ブギウギ・バンドでデビュー。作詞家の阿木燿子とのコンビで、山口百恵など多くのアーティストに楽曲を提供。映画「曽根崎心中」(増村保造監督)で初主演。高橋伴明監督「TATTOO<刺青>あり」のほか「その後の仁義なき戦い」「駅 STATION」「上海バンスキング」「どら平太」「罪の声」など出演作多数。

週刊朝日  2021年2月26日号より抜粋