政権側が重要証拠の一つとして押収したのが、黒魔術用だという10センチ足らずの3体の人形だった。

「人形は最高指導者のタンシュエ氏、政権ナンバー2の副議長、ナンパー3の第一書記の幹部3人を模したものとされ、呪詛目的と見なされたわけです。ヤンゴン大学の図書館で事件を報じた新聞記事を見たところ、問題となった人形の写真も出ていて、横一列に並んだ3体はどれも軍服姿。中央の1体はわずかに右手を上げて立ち、タンシュエ氏のようでした」

 事件から9カ月後、ネウィン元大統領は死去。親族4人は罪状を否認したが、裁判所で死刑の判決が確定した。4人と占星術師は長い獄中生活の後、恩赦で出獄している。

 旧軍政下の05年11月には、ミャンマー最大の都市ヤンゴンから、ネピドーへ遷都が行われた。

「国家安全保持上の理由に加え、ヤンゴンのインフラに問題があるとか、ネピドーが水道や面積の点で新都市の設計に融通が効くという合理的な理由も存在しますが、遷都についても占星術師の関与が指摘されています」

 人権活動家のベネディクト・ロジャーズは著書「ビルマの独裁者タンシュエ」の中で、遷都について「11月11日午前11時には、11の国軍部隊と11の省庁の職員が1100台の軍用トラックに乗ってラングーンを出た。占星術者の助言を受けてか、タンシュエはビルマの首都を移転することにしたのだ」と記述している。

「ロジャーズ氏の記述がすべて事実かどうかについては疑問があります。ただ、11月11日というのは、私が取材した占星術師もそう証言しました。ミャンマー仏教に『11の炎』という概念があります。欲、憎悪、妄想、誕生、老い、死、悲しみ、嘆き、苦痛、憂い、絶望を表す11の炎をいかにコントロールしながら生きていくかが問われる、というもの。これに数秘術的に特別な意味を持つ数字の11を重ね合わせた形です。数秘術では人間を含めた宇宙のすべてのものは『数の法則』により秩序づけられ、支配されているとみなされます」

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春日氏が会ったスーチー氏とミンアウンフライ氏の印象