「アウラーン」というミャンマー語は、『ブラック・マジック(黒魔術)』を意味する。反対の『ホワイト・マジック(白魔術)』も存在しているという。黒魔術は数字や図形を使う。

「生年月日を知られると、将来の運勢があらわになる。さらに、『魔法円』や『魔方陣』などのツールを使われれば、呪いをかけられるのです。ミャンマー軍は内戦で武装勢力と戦っているが、軍事的攻撃だけでなく、スピリチュアルな攻撃にも備えなければいけないんです」

 春日氏は公表情報を元に、テインセイン元大統領の誕生日を片っ端から調べた。すると、「1945年4月20日」と「1945年5月11日」の2通りの説があり、そこから先が絞り込めない。さらに正確な情報をとろうと、テインセイン氏の身近な人たちにも取材していった。実兄に聞いたところ「弟は5歳違いなので1944年生まれです」という話に辿り着いた。公表情報とは年代まで違う。「弟の正確な誕生日は、よく知りません」と答えるのみだった。

「これはもう、直接本人に聞くしかないと思い、ようやくテインセイン氏と会えた。インタビューも終わりに近づいた頃、『個人的な質問ですが・・・』と切り出したとたん、話を打ち切られ、スタスタ歩いて来て笑顔で握手を求められ、聞けない雰囲気になってしまいました。相手は大統領ですから……」

 テインセイン氏が誕生日を隠していると思われるのは、それがミャンマーの社会通念であり、黒魔術の標的となるリスクを回避するためだというのだ。

 黒魔術をめぐっては、今も謎を残す「クーデター未遂事件」がある。

 1962年のクーデターで政権を奪取し、26年間の長きにわたって政権を牛耳ったネウィン元大統領が88年に退陣。92年にはタンシュエ氏が最高指導者として軍政を率いた。2002年3月、引退したネウィン氏の親族4人(娘婿と孫3人)が人形を使いってタンシュエ氏らに呪いをかけたという疑いをかけられ、クーデター計画だとして逮捕された。一家の顧問をしていた占星術師も投獄された。

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ヤンゴンからネピドーへの首都遷都にも占星術の影響?