ヤンゴンでアウンサンスーチー氏の写真を掲げてデモをする人々 (C)朝日新聞社
ヤンゴンでアウンサンスーチー氏の写真を掲げてデモをする人々 (C)朝日新聞社

 2月1日、ミャンマーで軍がクーデターを起こし、事実上の最高指導者であるアウンサンスーチー国家顧問や大統領、彼女が率いるNLD(国民民主連盟)の幹部議員らが拘束された。スーチー氏は現在、軟禁状態に置かれている。市民が繰り広げる抗議デモに対しては、国軍が市街地に装甲車を配備し、警察隊が催涙ガスを発射、放水するなど、ますます弾圧を強めている。

 大混乱に陥ったミャンマー。実は、黒魔術や占星術が水面下で政治と密接に結びついてきた歴史があるという。そんなミャンマーの意外な一面を、昨年10月に刊行した著書『黒魔術がひそむ国 ミャンマー政治の舞台裏』(河出書房新社)で描いた元毎日新聞編集委員の春日孝之氏に聞いた。

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 仏教国として知られるミャンマー。だが、春日氏によればコインの表裏のように、表の世界は僧侶、裏の世界に占星術師や呪術師が存在しているという。

「ミャンマーの政治指導者の多くがお抱えの占星術師や超能力者らを雇っており、プライベートを含めて、日常的に彼らの助言を活かしています。彼らが政権の政策決定に少なからぬ影響を与えたことは自明です。今回の件にどれほど関与したかはわかりませんが、クーデター実行の判断はともかく、決行の日時に影響を与えていても不思議はないと思っています」

 春日氏はタイの首都バンコクでアジア総局長を務めた2012年頃からミャンマーの現地取材を始め、13年からはヤンゴン支局長を兼務して3年間駐在した。当時は国軍系政党の連邦団結発展党(USDP)が主導するテインセイン政権時代(2011年~2016年)。ある日、記事を書きながらふと、テインセイン大統領の誕生日が2説あり、筆が止まった。政府に問い合わせてもなぜかたらい回しにされ、ウヤムヤにされたことから、大統領の生年月日に興味を抱くようになった。

「要人の誕生日は普通の国に駐在していればすぐにわかるものなんです。ところが、ミャンマーではトップシークレットの扱いなんですね。ミャンマー情報省に務める官僚から聞いたところ、彼らは『アウラーン』の呪いを恐れているのだそうです」

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上田耕司

上田耕司

福井県出身。大学を卒業後、ファッション業界で記者デビュー。20代後半から大手出版社の雑誌に転身。学年誌から週刊誌、飲食・旅行に至るまで幅広い分野の編集部を経験。その後、いくつかの出版社勤務を経て、現職。

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ミャンマー大統領が誕生日を隠す理由