具体的には、飼い主(委託者)が施設や特定の個人などの飼育者を指定した上で飼育費の管理者(受託者)と信託契約を結び、金融機関に信託専用口座を開設して、そこに飼育資金を移す。飼い主に万一のことがあったときに信託が開始され、ペットは指定された飼育者に引き取られて、飼育者には専用口座から飼育費が支払われる。

 ペットのための信託は相続財産からは切り離されるため、専用口座の資金が相続人による争続に巻き込まれることはない。また、契約次第で存命中であっても飼育が困難になった時点で信託財産を使うことが可能となる。

 ペットのための信託では、飼育資金を管理する会社の設立を勧められることがある。しかし、自身も管理会社を立ち上げた経験を持つ服部さんは、「法人だと毎年、税務手続きが必要になり、法人税がかかる場合もある。経営とは無縁の個人が会社を作るというのはハードルが高く、普及の妨げになる」とあえて個人間の契約に絞ったという。

 受託者には親族などになってもらい、飼い主自身を第一受益者とする。これにより、飼い主より先にペットが死んだ場合、飼育資金を飼い主へと戻すことができる。ペットの種類や施設の利用料などで必要な資金額は変わってくるが、行政書士への手数料は基本10万円(税別)、ほかに公正証書作成費用が数千円かかる程度という(服部さんの事務所で手続きした場合)。服部さんが手掛けた信託契約は全国で約30件に上り、契約者の年齢は、下は39歳から上は80代までと幅広い。高齢者に加えて、おひとりさまの利用も目立つという。

 余命宣告を受けた50代のシングル女性が、愛の将来を託したのもこの信託だった。女性にはきょうだいが一人いたが、ペットのことで余計な負担をかけたくないという思いがあった。そこで親友に受託者になってもらい、自分の死後は愛猫を信頼できる保護猫カフェに任せ、そこに飼育費を支払う手はずを整えた。昨年女性が亡くなった後、猫は保護猫カフェに引き取られた。

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