私は卓袱台を前にして煎座布団に胡坐をかき、壁に貼ってあるメニューの短冊を見るとジンギスカンしかなく、それもライスだけ大、中、小と区別され、あとはビールやジュースといった飲みものだけである。ジンギスカン一人前とライス小を注文したのは正解で、ライス大は丼に盛って三杯分、中は丼二杯分、小は丼一杯分だということが後にわかったためである。

 しばらくして、中皿に盛られた羊肉と丼飯が運ばれてきた。ジンギスカンは、この店特製のあっさりとしたつけダレに肉を漬け込んだもので、それを焼いて食べるのである。卓袱台の上のガスコンロにはピカピカに磨かれた帽子型ジンギスカン鍋が配置されていて、鉄製のその鍋には、ジンギスカン焼特有に、幾筋も溝が掘られている。

 タレに漬け込まれていた羊肉について聞いてみると、柔らかで臭みの少ないラムではなく、マトンだということであった。ラムに比べて匂いが強く、幾分筋が多く硬めだけれども、味は濃厚で私はラムもマトンも大好きである。肉の周りには多めにモヤシと玉ネギも添えられている。

 鍋に火を付け、その上に大きめの羊脂の塊をのせ、それが溶け出してきて煙が上ってきたところで鍋の周りにモヤシと玉ネギを置き、いよいよ羊肉を焼いた。肉は新鮮で力のあるマトンのためか、熱せられた鍋の上でチリリと反り返るように丸まり、ジュージューと鳴き出した。すると、私の周りには、タレに染まったマトン特有の焼き香が煙と共に漂い、その香ばしい匂いが胃袋を締めつけるように迫ってくる。

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ある時幾つかの答があることに気付いた