親船の研究室に来てから三日目には、もう自分がつくったスケジュール通りに動くようになった。午前一一時三〇分になったので下の駐車場に行って車に乗り、札幌方向に向って七分で着く「オールドリバー」という素敵なレストランに行く。この店は研究室を使わせてくれている水産会社の直営店で、一階が大きな水産物販売所、二階がレストランになっている。

 この店は北海道の魚介類に関する料理は大概がメニューにのっている。例えば「時鮭定食」とか「北海海鮮丼」、「海老天丼」、「マグロ丼」、「北寄定食」、「ウニ・イクラ丼」、「ウニ丼」、「北海握りずし」などのほか「カニラーメン」や「北寄カレー」、煮魚、焼き魚、フライなど何でもあるので、目移りするほどである。どの料理もとても美味しく、その上値段も手頃なので、年中客で混んでいる。

 私の昼食は大概、このレストランに行って名物の「グルメおにぎり」を二個買ってくることにしている。このおにぎりはソフトボールの球ぐらい大きく、その中に脂肪ののった美味しい焼き鮭の身、小手毬のように寄せ集まった筋子、新鮮でむっちりとした生の鱈子などをゴロゴロと入れ、極上の海苔で包んだ特製の手握りおにぎりである。私の昼めしはこの二つのおにぎりで十分で、それを持って天気の良い日は、オールドリバーの川の脇に据えてあるベンチに座って景色を見ながら食べるのである。

こいずみ・たけお 1943年、福島県生まれ。東京農大名誉教授で、専攻は醸造学、発酵学。世界各地の辺境を訪れ、“味覚人飛行物体”の異名をとる文筆家。美味、珍味、不味への飽くなき探究心をいかし、『くさいはうまい』など著書多数。

週刊朝日  2021年2月19日号より抜粋