人間の想念は物体現象を起こすという超常的科学知に従えば、マイナス想念を持たなきゃ、大丈夫ということになります。そこでです。想念が物質に影響を与えるエネルギーがあるなら、いっそのこと、世界中の人間が「エイ、ヤッ」とコロナに向けて、「あっちへ行け!」とか「消えてしまえ!」という想念エネルギーを送ったらどうなんでしょうか。でも現代の科学は物質科学なので、そんな神秘主義など誰が信じますかね。スプーンに「曲(まが)れ」と念をかけるように、コロナに「死ね!」という念力が通じると信じている人はほとんどいません。もし、そういうことがあり得ると全人類が信じて、一斉に念をかけたら、奇蹟(きせき)が起こるかも知れませんよ。コロナを退陣させるためには奇蹟しかないんじゃないでしょうか。でないと聖書の「黙示録」が現実になりかねません。怖いですね。

■瀬戸内寂聴「『コロナ去れ!』私こそ念じる役回りかも」

 ヨコオさん

 全くこの頃の暮らしは、第二次世界大戦の時代がよみがえったみたいですね。私はもうすぐ百歳を迎えるハメになりました。まだ食事は二食たっぷり食べ、夜はお酒も呑(の)んでいい気持ちになり、気分が高揚すると、それからぷるんと水で顔を洗って、ベッドに腰かけ、小さな脇机に向かって、締め切りの短編ひとつ書いたりしています。ええ、六、七枚くらいです。

 コロナなどという怪しげな病気に取りつかれて死ぬのは、死んでも死にきれないですがせっかく満九十八歳まで長生きしてきたのだから、区切り良く、百まで生きてみたいと思い始めました。でも仰せの如(ごと)く、目鼻も手足も内臓もないくせに、生物だと威張っている怪しいコロナめにのさばられて、人間の私たちは、不細工なマスクで、せっかくの美貌(びぼう)をおおい隠し、鈴のような天性の美声も、マスクのかげで、モソモソとつぶやく次第です。これでは、どんな甘い恋の睦言(むつごと)も、鼠(ねずみ)のおなら(聞いたことないけれど)みたい。

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