今はおかげさまで舞台に立てていますから、仕事のペースはあまり変わりません。ただ、以前と比べて朝から晩まで劇場に詰めることもなく、集中して舞台の準備をして、劇場で最大2時間演じ、帰って疲れを取るという流れなので、サイクルを作りやすいです。欠かせないのは昼寝の時間。短めに20分ぐらい昼寝を取ると、すごく甦ります。

 不思議なことに、家に籠もっている時間にいろんなことを考えられると思ったら、意外とそうでもない。人と直接コミュニケーションが取れない時期が長くなると、何も考えられなくなるということがわかりました。それが人間の行動を制限することの難しさですね。

──コロナ禍でどんなことを考えているか。

 コロナによって今、人間が試されていると思うのです。人間の生活を、経済ではなく、心の問題として考えないといけない局面なのだと思います。

 コロナ前の失われた20年の間で、世の中のスピードがあまりに速くなってしまって、人と人とのつながりもネットで完結できるようになってしまった。ですが、コロナによって、人間同士が直接会うことの大切さを痛感させられています。そしてバーチャル頼みになりすぎると、魂が潤わないということがわかってくると思うのです。

 消費をあおられ、経済優先の世の中で、「お金を使って世を闊歩しないと人生じゃない」という観念を定着させられました。その観念のもとで経済がまわって、一度止まると崩壊してしまう。その危うい構造自体を考え直さなければいけない局面なのだと思います。

 歌舞伎界も大きな転換期を迎えると思います。劇場から足が遠のくご贔屓(ひいき)さんも少なくない中で、この期間に改めて「これは本当に見るべきものだっただろうか」と、多くの人が考えると思います。そうした時に、やっぱり見るべきだと思うものを提供していたか。つまり、真心を込めてお客様のために作ったものかどうかが試されます。

 人と心を大切にしないといけないという本質的なことを、改めて問われるタイミングなのではないでしょうか。

(構成/本誌・松岡かすみ)

週刊朝日  2021年2月19日号

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松岡かすみ

松岡かすみ

松岡かすみ(まつおか・かすみ) 1986年、高知県生まれ。同志社大学文学部卒業。PR会社、宣伝会議を経て、2015年より「週刊朝日」編集部記者。2021年からフリーランス記者として、雑誌や書籍、ウェブメディアなどの分野で活動。

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