テレビドラマの収録は初めての経験でした。正直に申し上げて、非常に緊張しました。もともと私は主演の長谷川(博己)君のお父さんと親しくしていたことから、長谷川君とは知り合いで、「今度大河の主役をやる」と聞いた時に、「お父さんのこともあるから、1シーン出ようか」というのが始まりでした。正親町天皇のことはあまり知りませんでしたが、「1シーンぐらいなら」と思って出演を決めましたら、打ち合わせを重ねる中で脚本がどんどん膨らんでいったという感じです。

 正親町天皇という役は難しかったですね。当時の天皇家の資料は、ほとんどないそうなんです。どんなふうに生活していたかという記録もない。その分、自分の想像で作っていくことができた部分もあります。役作りは、唯一の資料とも言える肖像画を第一に考えていきました。どんなものを着ているか、どういう烏帽子をかぶっているかといったことに始まり、どういう顔つきで、どう座っているかなど研究しました。衣裳は装束専門の方に作っていただき、専門の方に着付けしていただいて、1シーンごとに皺とか袖の位置を直しながら撮りました。

■コロナで人間が試されている

──収録を終えての感想は。

 緊張しましたが、「やるっきゃない」という思いで乗り切りました。4時間以上の撮影になると、覚えていたセリフも出てこなくなるんです。本読みでセリフを覚えていても、セットの中に入って相手がいて、あの重い装束をつけているのとでは全然違う。入っていたはずのセリフが甦ってこないことがありました。

 心がけたのは、「あまり演技をしない」ということです。言葉を咀嚼したり、作家の思いを自分の中に入れたり、その時に天皇であったらどう思うかということを突き詰めたりして、あとはなるべく表現をしないと決めました。

──コロナ禍で、生活にどんな変化があったか。

 以前と比べて、家にいる時間が長くなって、テレビをよく見るようになったりしました。自粛期間中は、自分で一日のプログラムを決めて、家で踊ったり、毎日40分前後近所を歩いたり、趣味の陶芸をしたり。止まっていると体が痛くなったりするので、動かないことがとてもつらいんです。

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