私は政治家にインタビューする時、必ず最初にこうことわる。

「先生ではなくお名前で呼ばせていただきますが、よろしいですね」
 
どの政治家も、いやとは言えないらしい。

 ずっと昔のことだが、賀屋興宣氏にインタビューした時のこと。いつものように「お名前で呼ばせていただきます」というと間髪を入れず、こう言われた。

「当たり前だろ、キミ。役職で呼ぶのもいいが、名前があるんだから、名前で十分」

 そして気分よく軍人恩給を復活させた理由などを話して下さった。

 親しくしていただいた土井たか子さんも「名前で呼んで」といつも言っていて、気さくに一緒に歌ったりした。

 昔より最近の方が「先生」と呼ばれたがる人がかえって多い。それは、国会議員としての仕事を理解できていず、虚飾が好きという証拠なのだ。多分、銀座のクラブでも「先生」「先生」と言われて喜んでいるのだろう。

週刊朝日  2021年2月19日号

下重暁子(しもじゅう・あきこ)/作家。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業後、NHKに入局。民放キャスターを経て、文筆活動に入る。主な著書に『家族という病』『極上の孤独』『年齢は捨てなさい』ほか多数

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下重暁子

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下重暁子(しもじゅう・あきこ)/作家。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業後、NHKに入局。民放キャスターを経て、文筆活動に入る。この連載に加筆した『死は最後で最大のときめき』(朝日新書)が発売中

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