平井伯昌(ひらい・のりまさ)/競泳日本代表ヘッドコーチ、日本水泳連盟競泳委員長
平井伯昌(ひらい・のりまさ)/競泳日本代表ヘッドコーチ、日本水泳連盟競泳委員長
男子200メートル平泳ぎで優勝するも、日本記録を破れず悔しがる佐藤翔馬=1月24日、代表撮影
男子200メートル平泳ぎで優勝するも、日本記録を破れず悔しがる佐藤翔馬=1月24日、代表撮影

 指導した北島康介選手、萩野公介選手が、計五つの五輪金メダルを獲得している平井伯昌・競泳日本代表ヘッドコーチ。連載「金メダルへのコーチング」で選手を好成績へ導く、練習の裏側を明かす。第55回は、佐藤翔馬選手について。

【写真】男子200メートル平泳ぎで優勝するも、日本記録を破れず悔しがる佐藤翔馬選手

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 無観客で行われた北島康介杯(1月22~24日、東京辰巳国際水泳場)で、東京スイミングセンター所属の慶応大2年、佐藤翔馬がすばらしいレースを見せました。男子200メートル平泳ぎでチュプコフ(ロシア)が持つ世界記録まで0秒66の2分6秒78をマークして優勝。自身初の2分6秒台で渡辺一平の日本記録まで0秒11に迫りました。

 積極的に飛び出して150メートルまで世界記録のペースを上回りました。ラスト50メートルの泳ぎ方に課題を残しながら、はっきりと世界新が視界に入ってきました。

 世界のトップがしのぎを削る種目ですが、ライバルがどう泳ごうと、おれはこれだ!という「翔馬スタイル」を築き上げてほしい。たとえば150メートルまでライバルがどんなに頑張っても追いつけないタイムで入って、相手が自分の手を崩さないと勝負できないと思わせることができれば、精神的にも優位に立てます。

 北島康介、萩野公介が五輪で金メダルを取ったときも、五輪本番までの大会で北島の勝ちパターン、萩野の勝ちパターンをライバルたちに見せて、こちらに合わせていかなければいけないと思わせる心理戦を、ずっと仕掛けていました。

 佐藤を指導する西条健二コーチには「ここから先は自分たちでよく考えて、自分たちのレースを作り上げていくしかないよ」という話をさせてもらいました。勝負は人とするものだけれど、その前に確固とした自信を自分の中に作っていかなければいけない。以前書いた、どんな敵にも動じない「木鶏」の話にもつながるのですが、自分の心と体をコントロールできなければ勝負には勝てない、と考えています。佐藤と西条コーチの今後の戦いが楽しみです。

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平井伯昌

平井伯昌

平井伯昌(ひらい・のりまさ)/東京五輪競泳日本代表ヘッドコーチ。1963年生まれ、東京都出身。早稲田大学社会科学部卒。86年に東京スイミングセンター入社。2013年から東洋大学水泳部監督。同大学法学部教授。『バケる人に育てる』(小社刊)など著書多数

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