※写真はイメージです (GettyImages)
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 ライター・永江朗氏の「ベスト・レコメンド」。今回は、真山仁著『ロッキード』(文藝春秋/2250円・税抜き)を取り上げる。

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 田中角栄が逮捕されたとき、高校生だったぼくは快哉を叫んだ。狂乱物価をまねいた悪い政治家、企業から賄賂を受け取った汚い政治家に、罰が与えられたと思った。だが、その後、ロッキード事件に関するいろんな本を読むうちに疑問を持つようになった。角栄はアメリカに従わなかったので罠にはめられたという陰謀論もよく聞く。

 真山仁の『ロッキード』は、1962年生まれで事件当時は中学生だった小説家によるノンフィクションである。

 真山は事件のすべてをゼロから調べ直す。資料を読むだけでなく、生存している関係者に会い、40年以上経った現場を歩く。そして、検察の主張の不自然さと判決の不当性を確信するに至る。なかでも現金授受についての検証は、『ハゲタカ』はじめ社会性の強いエンタメ作家ならではの筆がさえる。有罪の理由とされた、ロッキード社からの旅客機購入に関して賄賂を受け取って便宜を図ったという話には無理がある。

 もっとも、だからといって角栄がクリーンな政治家だったというわけではない。しかし、汚かったのは彼だけではない。本書には中曽根康弘や佐藤栄作についても出てくるが、彼らのほうがよっぽど怪しい。

 では、なぜ角栄は有罪になり、当時のぼくたちはそれを支持したのか。「世論」が角栄を葬ったのだ、と真山はいう。角栄が首相になったとき、世論は「今太閤」「コンピューター付きブルドーザー」と持て囃した(菅の「叩き上げ」と似ているかも)。だが、列島改造論で地価が高騰し、オイルショックに狂乱物価となると、世論は百八十度転換。持ち上げたら落とすのがぼくらの流儀だ。

週刊朝日  2021年2月12日号