「4本やって、『まだまだ続けてほしい』という声も多かったのに、降りてしまったので、世間からはバッシングの嵐。新人のときとは違う、どん底の苦労を経験しました。でも、逆に『さそり』を自分から辞めたことでいろんなオファーが来て、ありとあらゆる役をやることができた。地獄からの生還です(笑)」

 むしろ梶さんは、女優としての仕事は40代になってから激減するだろうと予想していた。

「年齢的に、母親役をやるのは当然としても、“普通のお母さん”にしては、少し押し出しが強い感じがしてしまうだろうな、と。かといって、おばあちゃんはまだ早いし、キャリアウーマンなら、私よりふさわしい女優はたくさんいて……」

「この先、何か自分にピッタリくる役はないだろうか?」と思っていたときに、新聞を読んでいると、中村吉右衛門さんの主演ドラマ「鬼平犯科帳」が京都でクランクインしたという記事が目に飛び込んできた。

「それを見て、『どうしても出たい!』と思ったんです」

「鬼平~」で密偵の“おまさ”の役をもらったときは、「この役を演じることは運命だった」とまで感じた。

「女優として、どう進んでいくべきかを悩んで、悩んで。その葛藤がすごくて、ストレス倒れしかねないような精神状態でした。そんなときにおまさと出会えた。『鬼平』がなかったら、今の私はないと思います。40~60代、私はおまさとともに生きて、70でロックですよ。ハハハハハ! もう笑っちゃうわね」

 雑誌の対談で、鬼平フリークだというさだまさしさんと会ったとき、「梶さんの自伝の『真実』を読んで、『追憶』を聴いてから来ました。『追憶』を聴けば梶芽衣子がわかると思った。素晴らしかった!」と感想を伝えられたという。

「私が『そんなこと言うなら私に曲を書いてください』と言ったら、『いいですよ』って返事してくれたのに、まだ曲が来ないの。『梶さんに書くならシャンソンだなぁ』なんておっしゃっていたけど、私は、エラ・フィッツジェラルドを神様のように思っていて、あんなふうな魂の歌は歌えない。それはできません、と言ったのがいけなかったのかしら」

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