バッハIOC会長と菅義偉首相 (c)朝日新聞社
バッハIOC会長と菅義偉首相 (c)朝日新聞社
最近と今後の五輪開催都市 (週刊朝日2021年2月12日号より)
最近と今後の五輪開催都市 (週刊朝日2021年2月12日号より)

 新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、東京五輪の今夏開催について懐疑的な見方が広がっている。1年延期が決まった昨年のように、聖火リレーの国内スタート(3月25日)までに開催の行方が決まりそうだ。ただ、英タイムズ紙が報じた2032年への“延期”は実現に向けて課題が多い。

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「今夏の開催を改めて確認した」

 東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長は1月28日、国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長と電話協議した後の記者会見で、そう述べた。無観客も想定しているとしたが、大会の安心・安全の基準を問われると、

「そんな判断の基準があるかというと、ない」

 五輪開催決定権を持つIOCに発言内容をチェックされるからだろうか。1月下旬に掲載された西日本新聞のインタビュー記事で、五輪の行方について「聖火リレーが出るかどうか、延ばすかどうかで自然に分かる」と答えたような“リップサービス”はなかった。

 今夏の通常開催はもはや現実的ではない。医療体制は逼迫(ひっぱく)し、自宅や宿泊施設で療養中に亡くなる感染者が出ている。2月7日期限の緊急事態宣言は延長される見込みだ。

 五輪開催に必要な医療スタッフは1万人程度。1年延期で新たに必要になった経費は2940億円。こうした人員やお金を日々の新型コロナ対策に充ててほしいという声が相次いでいる。1月23、24日の朝日新聞の世論調査で、再延期か中止と答えた人は86%に上った。

「夏にも流行が待っているのは昨年の例を見てもわかること。今年の開催はどう考えても無理です」

 そう指摘するのは医療ガバナンス研究所理事長で医師の上昌広氏だ。注意すべきは夏の状態をどう見るかだと強調する。

「コロナは季節変動する風邪ウイルスで、流行状況はおおむねわかっているのです。冬場に流行し、夏に小さな流行が起きる。昨年の第2波は真夏で、第3波が10月から立ち上がってきて、ちょうど今頃からピークアウトし始めました。夏に小さなピークがあるという、小流行の想定が抜け落ちているように思います」

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秦正理

秦正理

ニュース週刊誌「AERA」記者。増刊「甲子園」の編集を週刊朝日時代から長年担当中。高校野球、バスケットボール、五輪など、スポーツを中心に増刊の編集にも携わっています。

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