繰り下げ受給で月5万円だけ増やしたい場合は、25万円÷20万円=25%増額となればよいため、25%÷8.4%=2.97年で「3年弱」繰り下げればいい。

「受給時期を70歳まで繰り下げた場合、65歳からもらった場合の受取額の合計を上回るのは81歳前後。老後資金や健康状態をみながら、繰り下げるべきかどうかを考えましょう」(同)

 さらに22年4月以降、75歳まで繰り下げられるようになり、受取額は最高84%も増える計算だ。

 年金制度に詳しい社会保険労務士の北村庄吾さんは「65歳以降も働き続けるなら、会社員が望ましい」と強調する。

「週30時間以上など一定の条件を満たす会社員なら、厚生年金に入れます。今の受給額で不安な人は、加入した分だけ受給額を増やすことができますし、厚生年金とセットの企業の健康保険にも入れるので病気やケガになったときに傷病手当金が出るなど有利です」

 会社員にならずとも、国民年金の加入期間が、満額もらえる40年に満たずに未払い期間がある人はあきらめないでほしい。60歳以降に「任意加入」をすることで、加入期間を延ばして受給額を増やす手もある。保険料を払わなければならないものの、加入期間が1年延びれば年2万円近く受取額が増える。

 また、所定労働時間が週20時間以上などの一定の条件で、労災保険や雇用保険に入れるパートやアルバイト、派遣社員といった働き方もある。

「雇用保険に入れば、退社後も現役世代の失業手当にあたる『高年齢求職者給付金』がもらえるなどメリットは大きい。健康状態などをふまえ、無理せずに週20~30時間で働くのがベストでは」(北村さん)

 もちろん、老後も働き続けるメリットはお金だけではない。神奈川県に住む70代後半の男性は、高校卒業後に入った証券会社を60歳まで勤めた後、知人の紹介で地元の地方銀行の嘱託社員となった。

「企業年金や老後の蓄えも余裕があり、定年後は、現役時代に時間がなくてできなかった旅行などを楽しもうと考えていましたが、それでは飽き足らなくなりました。再就職を決めたのは、自分の知識や経験を生かせると考えたためです」

 働くことで、生活にも“潤い”が出たという。地銀を辞めた今は、NPO法人を通じて一般向けの投資や金融教育のボランティア活動に携わる。

 備えは、早いに越したことはない。自分なりに70歳就業時代をグランドデザインしてほしい。(本誌・池田正史、浅井秀樹)

週刊朝日  2021年2月12日号より抜粋

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池田正史

池田正史

主に身のまわりのお金の問題について取材しています。普段暮らしていてつい見過ごしがちな問題を見つけられるように勉強中です。その地方特有の経済や産業にも関心があります。1975年、茨城県生まれ。慶応大学卒。信託銀行退職後、環境や途上国支援の業界紙、週刊エコノミスト編集部、月刊ニュースがわかる編集室、週刊朝日編集部などを経て現職。

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