「それは、もはや僕自身にもわかりません。というのも僕の体には音楽がしみこみすぎていて、作品にどう影響しているのか、なかなか判断ができないんです。ただし、メロディー、リズム、ハーモニー、トーン……など、音楽を形成するすべてが僕の文章になにかをもたらしていることは、間違いありません」

 村上作品は、活字から音が聴こえてくると言われる。

「原稿を書くと、まず、自分で読み直しますよね。そのときに文章が音楽的に流れていないと、いやなんですよ。リズムに乗っていなければ、その箇所は書き直します。音楽的でないと、すっと読めませんから。何度も修正を重ねて、やがて文章が抵抗なく流れると完成です。その後に書籍化された自分の作品は、読みません。なんだか恥ずかしくて」

 音楽を味方につけて、村上はずっと、読みやすい文章、読みやすい小説を心がけてきた。

「僕が小説家になったのは40年くらい前ですけれど、当時は読みやすい文章が嫌われる傾向がありました。難解な小説をありがたがる人もいたと思います。でも、当時も今も、僕は読みやすい文章が好きなんです」

 インタビューの全文、関連グラビアと記事など計18ページは2日発売の週刊朝日に掲載されている。

(聞き手/神舘和典、本誌・森下香枝)

※週刊朝日2021年2月12日号より抜粋