各社の担当編集者から「淳ちゃん先生」と慕われた渡辺淳一さんも思い出の作家です。直木賞受賞前から単発の原稿を頼んでいましたが、昭和47年に仕事場へ連載小説をお願いにいくと、「フム、フム……」とうなずくばかりでした。感触は悪くなかったけど、即断即決という感じではありません。7年後にようやく京都の華やかな祇園を舞台にした『化粧』の連載が始まりました。渡辺さんは「……のようである」という表現を好んで用いました。「奥行きのある心理描写が可能」とのことでしたが、渡辺さんの女性への鋭い眼差しの中に秘められ、曖昧に揺れ動く優柔な性格が表れている、と思えたものです。

 私が在籍した当時は、週刊朝日の記事や連載が家庭や職場の話題の中心になったものです。時代は大きく変わりましたが、これからもごく普通の人々の生活とともに存在する雑誌であってほしいと願っています。

週刊朝日  2021年2月12日号