高齢者には、とくに医療費の負担増が気がかりだ。医療制度改革関連法案が国会で可決されると、75歳以上の後期高齢者の窓口負担が1割から2割になる。政府は22年度以降の引き上げをめざしている。

 こうした負担増に、肩を落としてばかりはいられない。4月の「改正高年齢者雇用安定法(70歳就業法)」施行によって、高齢者が働いて収入を増やすチャンスも広がるからだ。

 同法は企業に対し、社員が70歳まで働き続ける仕組みをつくるように求める。現在は「65歳」までの定年の延長、再雇用、定年の廃止のいずれかを義務づけるが、改正後は70歳まで拡大。さらに三つの対応に加えて、企業は、別会社への再就職の支援や業務委託契約の締結、起業の後押し、社会貢献活動への参加支援という四つの対応も求められるようになる。

 改正は「努力義務」のため企業で異なるものの、やがて義務化されるとの見方もある。再雇用契約を65歳から最長80歳まで延ばせる制度を導入した家電量販店のノジマなど、先取りの動きも出ている。

『定年の教科書』(河出書房新社)などの著書があるFPの長尾義弘さんは、同法について「より長く働く選択肢が増える」と歓迎する。

「老後資金に不安があったり、実際に足りなかったりする人は多い。働いて収入が得られれば、家計は当然、楽になります。元気なうちは働いたほうがいい」

 セコムが成人500人を対象に実施した20年6月の調査によれば、最も不安を感じることとして「経済的な負担」と答えた割合が48.2%でトップだった。一方で、具体的にどんな対策をとっているかを聞くと、半数超が「対策をしていない」とした。70歳就業時代となれば、なおさら心配になる。

「老後のお金について不安が大きいのは、どれだけ足りないかがはっきりとわからないから。収入がいくらあればよいかがわかれば、どんな働き方が自分に合っているかも見えてきます」(長尾さん)

 老後には、多くが直面する「収入減の崖」が待ち受ける。一つは「再雇用・再就職の崖」。定年退職後、それまで勤めていた会社に再雇用されたり、別会社に再就職したりすると、現役時代よりも収入が減るケースが多い。

 次に「65歳の崖」。再雇用の期間が終わり、収入が年金だけになるタイミングだ。その後に訪れる「企業年金終了の崖」も、要注意。公的年金のように、生涯もらえるとは限らないからだ。受給期間が終われば、公的年金だけになる。

 さらには、本人だけでなく、親や配偶者を含めた「介護・認知症の崖」や、「配偶者の死亡の崖」も収入ダウンにつながる。(本誌・池田正史、浅井秀樹)

週刊朝日  2021年2月12日号より抜粋

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池田正史

池田正史

主に身のまわりのお金の問題について取材しています。普段暮らしていてつい見過ごしがちな問題を見つけられるように勉強中です。その地方特有の経済や産業にも関心があります。1975年、茨城県生まれ。慶応大学卒。信託銀行退職後、環境や途上国支援の業界紙、週刊エコノミスト編集部、月刊ニュースがわかる編集室、週刊朝日編集部などを経て現職。

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