TOKYO FMのラジオマン・延江浩さんが音楽とともに社会を語る、本誌連載「RADIO PA PA」。今回は、久保田利伸について。
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「ザ・ヴォイス」とは20世紀エンターテインメントのカリスマ、泣く子も黙るフランク・シナトラのニックネームである。この言葉は本来の「声」だけでなく、「発言力」という意味も付加され、そこから「作品」や「人生」のメタファーとしても使われるが、実際シナトラも同名のアルバムをリリースし、シンガーとして自分のたどってきた半生を投影するに足る内容に仕上げている。
コロナ禍でのライブは少人数の観客を前にオンラインのものが多くなったが、会場に足を運ぶ観客にはこの上なく幸運な時間が訪れる。これは新しいライブ形式なのだろうが、自らの「ヴォイス」を披露し耳の肥えたリスナーを納得させる天賦の才と人気、そしてキャリアを兼ね備えたアーティストは限られる。そんな意味でも昨年青山のブルーノート東京で開かれた『TOSHINOBU KUBOTA~Bossa & Lovers Rock Night』の6日間はまさに日本最高峰の「ザ・ヴォイス」を堪能するロマンチックなライブだった。
ボサノヴァは、ブラジルのIPANEMA(イパネマ)など海岸地区に住む中産階級の若者たちのラブソングだ。ポルトガル語のボサとは「トレンド」、ノヴァは「新しい」。フランス語の「ヌーベルバーグ」と同義語である。都会のお坊ちゃんたちが生み出した甘く、切ない音楽は世界を席巻した。
繊細でソフィスティケートされたボサノヴァの魅力は、「鑑賞する」音楽というところにあると村上春樹さんに教えてもらったことがある。春樹さんはボサノヴァの中でもアントニオ・カルロス・ジョビンのファンだという。
業界同期でもはや何十年来の友である、なおちんことファンキー・ジャム大森奈緒子社長もスペシャルナイトにふさわしくシックな装いに身を包み、しっとりとした笑顔で「久しぶりね」と迎えてくれ、まずはシャンパンで乾杯!