帯津良一(おびつ・りょういち)/帯津三敬病院名誉院長帯津良一(おびつ・りょういち)/帯津三敬病院名誉院長
※写真はイメージです (GettyImages)※写真はイメージです (GettyImages)
 西洋医学だけでなく、さまざまな療法でがんに立ち向かい、人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱する帯津良一(おびつ・りょういち)氏。老化に身を任せながら、よりよく老いる「ナイス・エイジング」を説く。今回のテーマは「男性と女性の違い」。

*  *  *

【手術ぎらい】ポイント
(1)男性と女性では手術に対する考え方が違っている
(2)西洋医学は男性的な医学なのかもしれない
(3)女性のほうがホリスティック医学につながる

 男性だから、女性だからと決めつけるのは好ましくないと思うのですが、日々、患者さんに接しているとやはり、男性と女性は違っているという印象を持ちます。

 とくに顕著なのが、手術に対する考え方です。うちの病院には手術をするのがいやで、代替療法を求めてくる患者さんがたくさんいらっしゃいます。そういう患者さんの多くは女性なのです。

 先日も50代の女性の患者さんがいらっしゃいました。左胸に乳がんがあります。いまなら手術で十分抑え込める状態です。しかし、「手術するぐらいなら死んだほうがましです」というのです。そう語る表情に一点の曇りもありません。

 乳がんの手術は食道がんや膵臓(すいぞう)がんのように体の奥にあるものを切るのではないので、体に対する侵襲(負担)は小さくてすみます。手術であれば、1週間程度ですっきりできるのに、それを代替療法で抑え込もうとすると、うまくいっても年単位の日数が必要になるのです。そういうことを説明するのですが、手術がいやな人にいくら話しても無駄なことが多いのです。先日の患者さんもやはり初志貫徹でした。

 乳がんの場合、残しておくと腫瘍(しゅよう)が腫れ上がって出血したり、膿(うみ)が出てきたりすることがあります。しかし、手術を拒否した方たちはそれでも揺らぎません。平然としていらっしゃいます。そこに女性の強さを感じます。

 そもそも、西洋医学は男性的な医学なのかもしれません。人間の体を臓器ごとに切り分けて治療しようというのが、西洋医学の基本的な考え方です。ですから、外科手術というのは、それぞれの部分のなかで不都合なところを取り除いてしまおうという発想から成り立っています。

 
 親が男の子らしく、女の子らしく育てようと思わなくても、男の子は電車や車といった機械が好きです。しかもそれを分解したがります。これは男性の特性で、その男性性の延長に西洋医学もあるように思えるのです。

 一方で女性は、西洋医学よりも東洋医学に親和性があるようです。私が病院での診療に中国で知った気功を取り入れたとき、集まってくれたのはほとんどが女性でした。いまでもそれは変わりません。女性は男性に比べて、“部分”よりも“全体”に目がいくのではないでしょうか。ヨガや気功で自分の体全体を深く感じることができるのは、女性のほうです。それは、人間をまるごととらえようというホリスティック医学の考え方でもあります。

 さらに女性は治療に対しても我慢強いのです。抗がん剤治療の副作用に耐えることができるのは、圧倒的に女性のほうです。ところが、男性の場合は副作用に音を上げて治療をやめてしまうことが少なくありません。今回は女性賛歌の原稿になってしまいました(笑)。

帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中

週刊朝日  2021年2月5日号

著者プロフィールを見る
帯津良一

帯津良一

帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中

帯津良一の記事一覧はこちら