知人に見てもらうと、銀行の提案どおりに相続すれば、母親が相続しないため相続税の負担が軽くなる特例が使えなくなってしまうことがわかった。Aさんの妻や娘ら、法定相続人以外への相続は2割増しの相続税がかかる。こうした点などから、かえって相続税の負担が増える内容だったのだ。

 不信感を強めたのは、担当者から最初に言われた相続税の額が大きく違っていたことだ。実際は「数千万円」ではなく、「数百万円」だった。

「担当者に問いただすと、『計算が間違っていました』と。眠れないほど心配していたのに……」

 Aさんは結局、契約しなかったという。

 相続に詳しい板倉京税理士は、「とんでもない話」と憤る。

「顧客の危機感をあおって、契約を早く決めてしまおうという姿勢に映ります。そもそも、十分な説明や相談もなく、遺言を作るのは論外。この担当者は営業成績のことしか頭になかったのではないでしょうか」

 Aさんとトラブルになった銀行に確認すると「個別のご相談・ご契約に関する事項となるため、回答を差し控えさせていただきます。なお、相続業務における当社への苦情等の件数は明らかに減少傾向にあります。お客様にご相談することなく、契約の締結を進めることはございません」と。

 Aさんのケースは決して限られたものではなさそうだ。国民生活センターには、遺言信託に関する相談が寄せられている。「遺言信託や死後に備えた生前契約型のサービスなど『終活』に関する相談はいつも途切れることなく、寄せられています。遺言信託に限った集計はしていませんが、最近は増えており、折に触れて注意を呼び掛けています」(担当者)

 国民生活センターでは以下の被害が報告された。

▽営業職員が数人がかりで押しかけてきて、遺言信託を提案された。契約を結んだ後には、なぜか「家族にも話してはいけない」と言われた。後から解消したくなったので担当者に連絡をすると「不在」などと言われてなかなか取り合ってもらえない(80代女性)

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